ホイールの性能を維持し、製品寿命を最大化するためにメンテナンスが必要なことは誰もが理解していることと思います。だからこそ気になるのが、正しいメンテナンスの方法と頻度。特に頻度に関しては、唯一絶対の正解がないのが悩ましいところです。
この記事では、メンテナンスの方法や適切なメンテ周期といったハウツーはメーカーのマニュアルに任せて、マニュアル記載内容の背景にある考え方や、マニュアルを逸脱した際のデメリットやリスクについて触れ、自分でベストなタイミングを判断するための材料を提供します。
]]>メンテナンスは面倒だと思っていると、「〇〇万km(またはXX年間)ノーメンテで問題なし!」みたいな怪しい動画やSNS投稿が都合よく目に入るので、つい伸ばし伸ばしになりがちです。メーカーから推奨メンテナンス周期が明示されていても、「えっ!?そんなにやらなきゃダメ?」と疑ってしまうことも。
この記事では、メンテナンスの方法や適切なメンテ周期といったハウツーはメーカーのマニュアルに任せて、マニュアル記載内容の背景にある考え方や、マニュアルを逸脱した際のデメリットやリスクについて触れ、自分でベストなタイミングを判断するための材料を提供します。
必要なメンテナンスを怠った場合、部品は壊れていきます。 "壊れます" ではなく、時間の経過を伴って "壊れていきます" というのがミソです。
直感的にイメージできるよう、グラフにしてみました。データを元にしているわけではないので、縦軸はざっくり「性能」、横軸は「走行距離」と読んでも「経過時間」と読んでも構いません(たくさん乗る人は距離、あまり乗らない人は時間と読むとイメージしやすいと思います)。緑色は、動作不良や摩耗がない領域、赤色は摩耗や著しい性能低下がある領域を示しています。
後輪のラチェット機構を例に、グラフ各部分の状態を記します。
よく「特に大きな衝撃があったり落車があったわけでもないのに突然壊れた」というような話を聞きますが、大体は "突然" 壊れたのではなく、徐々に壊れていった結果、どこかのタイミングで走行に支障が出たというのが正確なはずです。
一般的な感覚では④が壊れたタイミングとして認識されるのでしょうが、「不可逆的なダメージ」という意味では元に戻せない摩耗も "壊れた" と呼ぶのに十分な状態だと捉えましょう。前述の「〇〇万kmノーメンテで問題なし!」の人は、たまたま④に至っていないだけで、各部品はすでに「問題あり!」かもしれません。
③"は不可逆的なダメージではない場合もありますが、瞬間的に④に至ってしまう恐れがあります。予兆なく絶好調から絶不調(ラチェットが噛み合わないなど)へと転じるので、事故などにつながるリスクもあります。
上の例に、適切なメンテナンスを導入すると、グラフは下のようになります。まずは、水分や異物の混入がない状態を見てみましょう。
②の段階でクリーニングと再注油をすると、ほぼ①の状態にリセットされるので、製品の寿命は最大化します。メーカーがマニュアルで指定するメンテナンス周期は、このあたりを狙って設定されます。もう少し先にある、緑とピンクの境界付近でメンテナンスをしても結果に差はありませんが、正確にその時点を予測するのは難しいので、ゆとりを持たせることになります。FFWDのホイールに多く採用されるDT Swissハブの場合、通常使用におけるメンテナンス周期は「1年に1回」と記載されています。
次は、事前予測が不能な、異物混入パターンです。③を例に見てみましょう
③、③'、③"のような状態は走行距離や経過時間と関係がないので、理想的には発生のタイミングが即メンテナンスのタイミングとなります。マニュアルに指定されたメンテナンス周期を守ると却って害になることもあるので、あくまでも目安として考え、早めに対処する必要があります。DT Swissハブの場合、異物混入リスクが高い環境でのメンテナンス周期は「3ヶ月に1回」と記載されています。
知らず知らず③、③'、③"のような状態に陥っていた場合には特に、悪い状態が長く続くことを意味します。それによって摩耗が進むと、メンテナンスでリセットを試みても①の状態まで戻すことができなくなるので、性能を100%引き出せなくなったり、本来の寿命をまっとうできなくなります。
誤った潤滑方法(グリスが必要なところにオイルを差す、専用グリスが指定されているところに違う種類のグリスを塗る、グリスが多すぎるなど)は、期待に反して潤滑不足や動作不良につながる恐れがあります。
不適切なクリーニング(パーツクリーナーを直接ブシャ〜っとやる、金属や樹脂を傷める洗浄剤を使うなど)は、洗浄剤が余計なところに入り込んで必要な成分を洗い流してしまったり、直接的に部品を傷めてしまうリスクがあります。
②の末期や③の初期に、応急処置的に "追いグリス" を施すのは、やらないよりはマシという考え方もできますが、せっかく高級な専用グリスを使うなら、汚れや劣化した古いグリスを綺麗に落としてからの方が、気分的にも良いと思いませんか?
グリスが切れるのは最悪ですが、入れすぎても抵抗が増えてしまうので "追いグリス" は慎重に(表向きはお勧めしません!)。
厳しい言い方をすると、誤った使い方やメンテナンスをしたり、メンテナンスを怠ったりすれば製品が意図された通りに機能しなくなるのは当然です。整備に関してはマニュアル通りにやっているつもりでも、前提となる専門知識がない場合には間違ってしまうこともありますから、自分でいじるならすべて自己責任と覚悟してください。
とは言え、保証は「製品が壊れないこと」をお約束しているわけではなく、「製品に不良がないこと」をお約束しているに過ぎません。いじるのも自転車の楽しみ方の一つですから、壊れたら有償で修理をするつもりで、チャレンジするのも良いでしょう(安全に関わることもあるので、やるなら本気で勉強してください。「ユーチューバーの動画を見た」は勉強にカウントしません)。
「維持管理にお金をかけたくない」というのは無理です。一歩間違えば他人の命に関わる乗り物ですから、こまめに点検し、必要な修理にはお金をかけてください。
新品では手が出ないような高級ホイールも、中古なら手ごろな価格で出回っていて、買うのも売るのも手軽なサービスが広まったことで、若い方を中心に一般的な購入手段になってきていると感じます。ただ、いざ修理が必要になると、買った値段よりも費用が高くなるケースもあり、直さずに整備不良の状態で乗り続けたり、壊れたまま再度、中古市場に流しているのを見かけます。
本題に使ったグラフで、模式的に中古ホイールの見えない過去をイメージしてみました。
手に入れたものに大満足なら良いですが、もしイマイチだったら、それは製品やブランドのせいではなく、前オーナー(あるいはそれ以前)のメンテナンスが悪かったのだろう、と思ってください。
古いホイールは、同じ部品が手に入らない場合もありますが、本物であれば中古でも修理やメンテナンスを承ります。お問い合わせフォームからご依頼ください。→https://ffwdwheels.jp/pages/contact
]]>この記事では、リムブレーキ用フルカーボンクリンチャー(チューブレス、チューブレスレディを含む)ホイールにまつわるテクノロジーと、安全に走行するための注意点をご紹介します。「フルカーボンのリムブレーキ用クリンチャーは下り坂では危険なの?」という究極の質問にもお答えします。
カーボンホイールは、軽量性、エアロ性能、ルックスも含め、ロードサイクリストに人気があります。これらの性能はヒルクライムにも平地巡航にもメリットをもたらします。カーボンは強度や剛性に優れていながら、軽量性においても有利な素材なので、同等スペックのアルミリムと比べると、圧倒的な加速性能と登坂性能を両立させることができます。
メリットがあれば、デメリットがあるのも事実。一般的に、カーボンホイールはアルミホイールに比べ高価で、扱い方を間違えればダメージに対してより繊細であると言えます。もちろん、アルミのリムも壊れないわけではありませんが、タイヤの空気圧がリムのブレーキ面付近に内側から加わっているところへ、ブレーキングの熱がリムに蓄積することで起きる変形や破損は、フルカーボンクリンチャー特有のダメージかもしれません。特にハイスピードからのブレーキングが求められる、峠道の長い下りでは、大きな問題となることがあります。
フルカーボンクリンチャーが出回り始めた15年以上前と比べると、目覚ましい技術革新が図られています。不適切な使用が原因であることが多かったとは言え、実際、初期のフルカーボンクリンチャーで問題が起きることは珍しくありませんでした。各ホイールメーカーの研究開発部門は、素材や製法の改善に取り組み続け、現在のフルカーボンクリンチャーリムに至っています。
FFWDの初期のフルカーボンリムには、ブレーキ面の素材としてバサルト繊維を用いていました。この素材は耐熱性に優れ、制動力も向上させました。現行世代のリムブレーキ用フルカーボンクリンチャーには、熱伝導に優れるカーボンナノチューブを用いた3K-NANOブレーキ面を採用し、放熱性が改善されています。ブレーキ性能はさらに向上し、総合的なパフォーマンスアップに貢献しています。
ディスクブレーキがロードバイクにも採用されるようになり、今や破竹の勢いで広がりを見せています。そのおかげで、リムブレーキは隅に追いやられてしまったかのようにも見えます。もうリムブレーキは終わったのでしょうか?
とんでもない!まだ数多くの素敵なリムブレーキバイクが存在し、どんな地形で乗るにしても、それに相応しい美しいホイールがあるべきだと私たちは考えています。
「山岳コースでフルカーボンのリムブレーキ用クリンチャーは危険なのでは?」という懸念も多くのサイクリストから聞かれますが、そんなことはありません!
ただし、ディスクブレーキでは気にしくて済むようなことにも、注意を払う必要はあります。
リムブレーキは文字通り、リムに制動面があります。対してディスクブレーキはハブに取り付けたローターが制動面となり、リムにはブレーキの摩擦力が加わらないので、カーボンホイールでも熱の蓄積や摩耗が問題となることはありません。これは長い下りや悪天候下において大きなメリットですが、「だからリムブレーキはダメだ」ということではありません。
リムブレーキの車体を持っていて、カーボンホイールへのアップグレードをしようとインターネットで検索し始めると、必ずと言って良いほど出てくるのが、物欲も萎えるようなリム破損体験談の数々。経験者の心中を察すると言葉もありませんが、幸いなことに、こうした体験は避けることができます。リムブレーキ用フルカーボンクリンチャーの取り扱いに関して、注意事項を見ていきましょう
まず最初に留意しなくてはいけないのが、下り坂でのブレーキ熱の蓄積です。長く急な下り坂では、ブレーキングの時間も長くなりがちで、リムとブレーキシューの間に起きる摩擦熱は放熱が間に合わずに蓄積されて、高温になります。アルミは熱伝導に優れた素材なので、熱が広範囲に分散しやすく、冷めやすい特徴がありますが、カーボンは熱をその場に留めがちで、ブレーキをかけっぱなしにするとオーバーヒートを起こし、剥離や、変形、タイヤが外れるなどの危険な状態になることもあります。
また、ラテックスなど、熱に弱い素材のチューブは使えません。最近、流行のTPUチューブもリムブレーキでの使用を禁止している製品がありますので、使用する製品ごとの注意事項を確認し、各メーカーの指示に従ってください。
熱の蓄積を最小限に抑えるためには、適正速度の維持(速過ぎ、遅過ぎは共にリスクあり)と、適切なブレーキ使用が求められます。過熱を防ぐためにはこまめにブレーキレバーを戻すなどの対策が必要です。言うまでもありませんが、ブレーキが正しく調整されていること、専用ブレーキシューの使用も過熱防止には必須です。
上述の通り、下り坂をリムブレーキ用フルカーボンクリンチャーで安全に走行するためには、ブレーキシューのタイプと品質が重要です。適切なタイプの高品質なブレーキシューは、リムとの間に発生する摩擦力を適正化し、その結果、熱の発生を適度に抑えることができます。不適切なタイプや、低品質なブレーキシューは、リムを傷め、ブレーキ性能も低く、危険な状況を招きます。
ブレーキシューはカーボンリム専用のものを選びましょう。カーボンリム用ブレーキシューは、アルミリム用のものに比べ耐熱性が高く、より柔らかいコンパウンドを使用しています。そのため消耗は若干、早くなりますが、ブレーキ性能は飛躍的に向上します。
カーボンリム用ブレーキシューは、より大きな摩擦によって確かな制動力を発揮するので、熱の蓄積を抑えつつリムの摩耗も防ぐことができます。メーカー指定(推奨)の銘柄があるならばそれを使用し、定期的に点検をして、使用限度を迎える前に交換することが肝要です。
リムブレーキは、雨天時などブレーキ面が濡れていると著しく制動力が低下する傾向があります。ブレーキ面の素材や表面処理、ブレーキシューの特性によって多少の差はありますが、概ねドライコンディションと比べると効きが悪くなるので、スピードを抑えて走ることになります。
ブレーキをかけても速度が落ちにくいので、ドライの時以上に長時間のブレーキングになりがちでオーバーヒートのリスクが高まります。雨でリム温度が下がると錯覚してしまいますが、実はあまり効果がありません。
また、流されてきた路面の汚れや砂粒などが巻き上げられて、ブレーキシューとリムの間に入り込みやすく、リムへの攻撃性が高くなりがちなのもウェット時の注意点です。
その気になれば、トッププロと同じ機材を使えるのがロードバイクのロマンでもありますが、平均的な一般ライダーの反応速度やテクニック、コントロールの限界、機材の整備状態は、トッププロのそれとは大きく異なることがあります。封鎖されたコースを走るプロレースとは違い、他の交通もある一般公道を走る時には、安全マージンの取り方も違います。当然、ブレーキのかけ方も、かける頻度も全く変わってきます。
この文脈で強調したいのは、峠道をフルカーボンのリムブレーキ用クリンチャーで安全に下ること自体は可能でも、誰もが同じようにできるとは限らないということ。
地形なりの速度でスムーズに走れる人もいれば、ブレーキに頼りきりな人もいて、その差は、フルカーボンクリンチャーの使用が可能か、アルミリムやディスクブレーキを選択するべきかの差にもなり得ます。
また、ヒルクライムの大会などでは、軽さを重視してリムブレーキとフルカーボンホイールを選択する方も多いですが、ゴール後の下山時に速度制限が設けられていたり、先導者を抜かないように求められることが多く、自分の必要以上にブレーキをかけなくてはならない状況が発生します。イベント参加時には、帰宅するまでの全場面を想定して機材を選びましょう。
リムブレーキ用フルカーボンクリンチャーホイールを使用する上で考慮すべき点を明らかにしたところで、より具体的な対策をお伝えします。繰り返しになる部分もありますが、安全に、ホイールの寿命を縮めることなく、余裕を持って乗れる上手なサイクリストを目指すためには、外せないコツです。
リムブレーキに限らず、正しいブレーキングテクニックを身につけることは、何よりも重要です。坂道で「コントロールできる速度域に保つこと」と、「一定の速度で下ること」は、似ているようで全くの別物です。正しいテクニックは前者。下り坂での自転車は、ブレーキをかけなければ加速してしまうので、速度を一定に保つということはブレーキをかけ続けることを意味するからです。フルカーボンのリムブレーキ用クリンチャーでは、特にこのブレーキのかけっぱなしが最悪なのです。
長い下り坂では、ブレーキを引きずりっぱなしにせず、断続的に、短く、しっかりと効かせます。ブレーキの使いすぎ、特に長時間レバーを握りっぱなしにするようなかけ方は、リムが過熱し破損につながるので、減速時以外はブレーキをリリースして、リムを冷ますことを意識しましょう(冷ますために水をかけたりするのは良くありません。リムブレーキは濡れると制動力が著しく低下しますし、急激な温度変化は剥離などの問題につながる恐れがあります)。
やさしくブレーキをかけた方が、熱の発生も摩耗も抑えられるような気がしてしまいますが、弱い効かせ方では十分に減速できないので、結果的にブレーキをかける回数も、一回あたりの時間も増えてしまい、逆効果です。
強くかけすぎるのも問題です。車輪がロックしてタイヤが滑るようなブレーキングは、まったくお勧めできません。
ウェット時には路面の摩擦係数が下がるので、タイヤが滑りやすくなりますが、ロックさせないように注意しながら、しっかり、断続的にブレーキをかける必要があります。ドライ時のブレーキ開始点よりはるか手前に、最低限「リム面を覆う水の膜を切るイメージ」で1回、「リム面を乾かすイメージ」でもう1回はブレーキングを追加しましょう。
正しいブレーキングテクニックを用いれば、スピードもバイクの挙動も完全にコントロール下に置き、ダメージのリスクを抑え、事故を防ぎ、フルカーボン クリンチャーホイールの寿命を最大化することができるでしょう。
カーボンホイールメーカーの多くは制限体重を設定しています。カーボンリムの耐荷重性能は、この設定値より遥かに高いことが一般的ですが、制限体重に関しては、重量が増えるほど減速しにくくなることを加味し、下り坂でブレーキ面に発生する過度で長時間におよぶ摩擦を防ぐ目的で設定しています。制限値を超えるのは危険なので、必ず守ってください。
慣例的に "制限体重"と表記することが多いですが、実際にはライダーの体重と、荷物や機材の重量を合計した "総重量" のことを指します。また、制限値未満であれば(無条件に)安全、という意味ではありません。それでも、スピードのコントロールに無理がなく、ホイール寿命に悪影響が少ない総重量の目安にはなるはずです。
繰り返しになりますが、ブレーキシューはカーボン専用の高品質なものを使いましょう。と言っても、市場には怪しいものも含め様々な製品が溢れていて、品質を見極めるのは困難です。ファストフォワードのホイールには、現行モデルの付属品として採用しているSwissStop(スイスストップ)のBlack Prince(ブラックプリンス)を推奨しています。
定期的な点検と、早めの交換も重要です。減っていたり、異物が挟まっている状態では安全な走行は望めません。十分な残量があっても、長期間乗らずにいるとゴムが劣化することもあります。
効きが落ちている状態や、異物によってリムへの攻撃性が高くなっている状態は、リムの寿命を縮め、事故などのリスクを増大させます。
ブレーキをかけた時に、元よりレバーが近くなったと感じたら、ブレーキシューが減っているサインかもしれません。唯一の判断基準ではありませんし、他の問題の顕れであるとも考えられるので、目視による点検(できればプロの目で)は外せません。
点検とメンテナンスの重要性は、何度も繰り返してきましたが、ブレーキ周りだけではなく、全体の異変(ホイールであれば、振れ、クラック、摩耗など)のチェックも怠らないようにしましょう。
定期的なクリーニング(洗車)で、ブレーキに悪影響のある汚れ(リム表面の砂や泥、油など)も取り除きましょう。チェーンなどついている余分な油分は、飛び散ってブレーキ面を汚す恐れもありますので、バイク全体をキレイに保つことはとても大事です。スプレー式のケミカルも飛散しやすいので、注意が必要です。
リムブレーキの調整は、基本的な工具だけでできることが多く、手を出しやすいと思いがちですが、ブレーキシューの取り付けなどは、知れば知るほど簡単だとは言えなくなってくる部分だったりもします。
カートリッジ式のブレーキシュー(金属のフネにゴムをスライドして入れるタイプ)ならゴム部分の交換は、比較的失敗が少ないですが、最初の取り付けは "分かっている" プロメカニックに任せるのが安心です。
ブレーキの片効きや、ホイールの横振れもブレーキングの効率に関わってきます。ブレーキの片効きに関しては、ちょっとキャリパーに当たったくらいでも動いてしまうことがあるので、乗るたびに点検するのがちょうど良いと思います。また、大前提として、ホイールが真っ直ぐ入っているかも確認しておきましょう。
「フルカーボンのリムブレーキ用クリンチャーは下り坂では危険なの?」という最初の質問の答えには、多くの要素が複雑に絡み合っています。
FFWDのTYRO RIM BRAKEなどに関しては、上述の注意事項を守れば「大丈夫!」と自信を持って言えますが、他ブランド(またはノーブランド)の製品にまで一般化した答えは出せません。カーボンリムの品質もまたピンキリで、姿形が同じでも、中身まで同じかは分からないからです。
カーボンホイールには下り坂でもアドバンテージになるような、軽さ、空力性能、剛性があります。一方で、熱の蓄積、変形やクラックのリスクと、ブレーキシューの性能にも影響される不確定さが、安全性に影を落としているのも事実。
対策としては、制限体重を守り、推奨されたブレーキシューを使い、こまめな点検とメンテナンスを励行して、正しいテクニックを用いれば、リスクを最小化できることも分かっています。
用途や技量にあっているか、カーボンホイールのメリットがリスクを上回るか、最終的に決めるのはライダー自身です。
でも、本当にフルカーボンのリムブレーキ用クリンチャーが危険だらけなら、FFWDもラインナップに加えることはなかったでしょう。つまり、その程度には安全だということです。
ロードホイールは、前後同ハイトのセットになっていることが一般的ですが、あえて前後に違うリムハイトのホイールを組み合わせる背景にある考え方、メリットやデメリットについて考察します。実際に、異なるリムハイトを組み合わせて使用しているプロ選手にも聞いてみました。
]]>この記事では、前後異ハイトの背景にある考え方、メリットやデメリットについて考察します。実際に、異なるリムハイトを組み合わせて使用しているプロ選手にも聞いてみました。
「前後でリムハイトを揃えるか、差をつけるか」という話の前に、まずはリムハイトの違いがどんな差をもたらすか、簡単に見ていきましょう。
リムハイトは高いほど多くの材料が必要になるため、重量が増えていきます。坂を一定の速度で登るような場面では、軽いほうが必要なエネルギーを小さくすることができます。
ホイール外周部の重量は、軽いほど加速レスポンスが良く、重いほど失速しにくくなります。 特に、駆動力を伝える後輪は、踏み込みに対する反応が分かりやすく伝わってきます。
リムハイトは高いほど気流が剥離しにくく、空気抵抗を低減できます。特に、脚の動きで気流が乱される後輪に比べ、比較的気流の乱れが少ない状態で当たる前輪はエアロ効果の恩恵を受けやすいと考えられます。
リムハイトが高くなると、横風に対しては面積が大きくなるため、不安定になる恐れがあります。特に、操舵を司る前輪は、風をうけてステアリング軸にトルクがかかる(ハンドルを取られる)と大きくバランスを崩しやすくなります。
また回転質量が大きくなると、ジャイロ効果も大きくなるため、ホイールの姿勢を変える(バイクを寝かせる)際に抵抗を感じる場合があります。リムハイトを抑えることでハンドリングが軽快に感じられる可能性がある、ということです。
リムハイトが高いほど、リム自体の剛性が高くなります。加えて、ハブとリムを結ぶスポークの長さが短くなるため、スポーク自体の変形量も抑えられ、ホイール全体としても剛性が上がります。ただ、積極的に高さの異なるリムを組み合わせる理由になるほどの差は感じないかもしれません。
メーカーによっては、最初から前後で異なるリムハイトを組み合わせていることもありますが、前後同ハイトを基準に考えると、違うリム高を組み合わせる理由や狙いがハッキリしてきます。
前後共に同じリムハイトを持つオーソドックスな組み合わせは、リム重量の差がなく、自然なバランスで、極端な挙動のクセもないことから扱いやすい組み合わせとなります。リムハイトなりの特性が素直に出るのが特徴。
エアロ性能を求めつつ、横風の悪影響を最小限に抑えたり、テクニカルなコースに合わせた軽快なハンドリングを前輪で確保する、というのがこの組み合わせの主な狙い。
ロングのトライアスロンなら、前RYOT 77 / 後DISC FCC DBが最強エアロセットアップとなりますが、体格や風の強さに応じて前後RYOT 77 → 前55 / 後77 → 前後55の順に横風対策をするのがお勧めです。
通称 "増田さんスタイル" 。より気流の乱れが少ない前輪側でエアロ性能を確保し、後輪側に軽いリムを組み合わせて加速性能をプラスするのがこの組み合わせの主な狙い。
インターバル的要素の多い日本のロードレースや、平坦のクリテリウムに向いていると考えられます。ハンドリング面ではクセを感じることがあるので、極端な差をつけるのは万人向けではありません。
今回は、このテーマに合わせ、前後で違うリムハイトを組み合わせてレースを走っている愛三工業レーシングチームの岡本隼選手(ハヤト)、草場啓吾選手(ケイゴ)、當原隼人選手(バル)、西尾憲人選手(ケイティ)にお話を聞いてみました。
まずはパターン①の前後同ハイトをメインにしつつ、組み合わせパターン②(フロントにRYOT 33、リアにRYOT 44)も使用したことのある岡本選手と草場選手にお聞きします。
開幕から2連勝を挙げた組み合わせでしたが、その後は前後同ハイトが定着したように見えます。パターン②にした狙いや経緯を教えてください。
(ハヤト)狙いとしては、前輪にはハンドリングの軽快さと重量の軽さ、後輪には確実な "伸び" を期待して前後異なるリムハイトを選択しました。
(ケイゴ)シーズンオフのキャンプ中にテストしていた組み合わせで、実戦でも使ってみた感じです。シーズン序盤で、まだいろいろ試せる時期というのもあったんで良かったんですけど、後のTOJとか全日本を見据えた場合に、勾配がきつくて周回コースで脚に何度も負担が掛かるコースなので、早めに前後RYOT 33に慣れていった方が良いのかな、っていう意味で切り替えました。
メリット、デメリットはどのように感じましたか?
(ハヤト)実際に使ってみて期待した通りの軽さと "伸び" を体感できました。2日間とも風のキツイレースでしたが、前輪をローハイトにしたことで乗りにくさとか、風に煽られることもなかったです。2日目のクリテリウムでは180°ターンが2箇所ありましたが、立ち上がりの初速を乗せる所では軽く、ダンシングを終えてシッティングで息を整える場面ではしっかりと後輪の "伸び" を感じる事ができました。
これと言って「ここが良くない!」というところはありませんでしたが、RYOT 44を前後に履いたときに比べると、下りから上りに入る場面や、起伏が変化する場所でトルクをかけて踏んだ時の進む感覚、車輪の前後バランスの良さはやはり前後同じハイトの方が良いと感じました。
(ケイゴ)コースにもよるんでしょうけど、前33/後44は自分の中では特に良さを感じない……あまり変わらないというか、その組み合わせなら前後33、もしくは前後44でいった方が良いかな、と。僕の場合は、フレームサイズとの相性でRYOT 33とMサイズの組み合わせが一番良くて、平坦でも33の方がいいのかな、ってちょっと最近は思ったりして…
草場選手はFFWDに乗る前の昨年も、登りのきついレースではアルミのロープロファイルリムを選んでたから、元々、軽めのホイールが好きなのかな?
(ケイゴ)軽いホイールと、多分柔らかい方が好きなんじゃないですかね。自分のリズムに乗せやすいというか。まぁ、前半は少し物足りなさはあるんですけど、結局レースって疲れてきてからの勝負が多いんで、柔らかい分踏みすぎず、セーブできる。逆に軽くて進みすぎちゃったら、前半から行っちゃうじゃないですか……「今日は調子いいな」みたいな感じで。でもそういったレースをしちゃうと後半、脚にくるんです。
なるほどね〜。
「かたいホイールは脚にくる?!」
https://ffwdwheels.jp/blogs/technology/all-about-wheel-stiffness
では、今度は組み合わせパターン③を多用している當原選手と西尾選手にお聞きします。
お二人がよく使うのがフロントにRYOT 44、リアにRYOT 33という組み合わせ。どうしてこの組み合わせになったのか、どんな効果を感じているか、お聞かせください。
(ケイティ)前44/後33を試したいなって思ったのは、空力が良いってことが一個あって、以前のチームで使っていたホイールでも、前輪のリムハイトを高くする組み合わせと相性がよかったので、RYOTでも試してみた感じです。バイクもホイールも変わったんで、それがどのくらい今までの感触があるのかな、っていうのが気になりました。
前後とも33だと自分にとってはあまり進まない印象で、TOJ(富士山ステージ)と全日本以外では使ってないです。前後とも44にすると、登りでは後ろに引っ張られるような感覚というか、ちょっと後輪が重い感触があります。前44/後33だとそういう違和感がなくて、相性が良いのかな、っていうことでずっと使い続けている感じです。
(バル)自分は踏み出しが軽い方が好きなので、RYOT 33をベースに、アップダウンがそんなにきつくない平坦基調のコースではフロントに44を入れて、オールラウンド的なコースだったら前後33を選んでいる感じです。
草場選手も最近、パターン③のフロントにRYOT 44、リアにRYOT 33という組み合わせを見かけましたが、どうでしたか?
(ケイゴ)プロのレースではなかったので、お試しでやってみました。登りと下りしかないコースだったんで、フロントがやっぱり重たい気がして。ダンシングの振りとかで普段よりもそれを感じて、どうしても後半にダメージが残りました。
本当にド平坦だったらいいんですけど、ちょっとでも登りがあるなら、前後33が一番好きかなっていうのはありますね。
(ハヤト)自分も、実際にチームメイトが選択しているのも見ていたので試した事があります。
おっ?どうでしたか?
(ハヤト)巡航性がよくて、上りも軽快にこなせて、高い出力を使わない領域ではかなり良い印象を受けました。
スプリントした時の "かかり" や "伸び" は、前後RYOT44や、前33/後44の時の方が良いように感じました。あと、ハンドリングなどの扱いやすさを考えたときには、少しピーキーで尖っている感じですね。
アップダウンのコースで逃げを決めに行く時などは良いと思います。
もちろん使用するフレームによって印象は変わってくると思いますが、現在自分が使っているフレームにはRYOT44を前後につけた時が一番しっくりきているので、パワーで勝負できる上りなら基本的にRYOT44を使用しています。
風の影響とか、ハンドリングの違和感とかは、他のみんなも感じる?
(バル)全然、気にならないです。前に44を入れても、レース中も意識しない、忘れてるくらいの感じで違和感はないです。
まあ、感じ方には個人差があるよねw
では、前後33とか44と比べた時に、異なるリムハイトの組み合わせはどっちに近い?
(ケイゴ)前44/後33は50:50な感じですね。リアで33の軽さも備えつつ、トルクもかけやすく、しなる感じを持ちつつも、フロントの44がしっかり剛性を持ってるんで硬くて推進力に変えてくれるっていうところで。なので、そういう組み合わせはありかなって思ってるんですけど、前33/後44は、変化が小さい気がします。
(ケイティ)草場選手と同意見です。前44/後33の方が良くて、前33/後44はそんなにメリットを感じていないです。
僕がよく使っている前44/後33は、どっちかっていうと前後44に近いイメージで、なんとなく、ちょっと登りがある時には後33にしようかな、っていうくらいの感じです。
(バル)前後33寄りに、ちょっとエアロが足されたっていう感じです。若干、重くはなってるんでしょうけど、やっぱりRYOT 33に空力が欲しい、エアロが欲しいっていう時に前44にするんで。逆はやったことがないんで分からないですけど、前44/後33は良いとこ取りな感じがしますね。33の "かかり" に44の "伸び" っていうのがピッタリです。
最近、本国のオランダでは、前44/後55とか、前55/後77っていう組み合わせのセット販売が始まっていて、元々、バラ売りの設定もあるから、要望があれば日本でも自由に組み合わせることもできるんだけど、「こういう人にはこの組み合わせがお勧め」とかってある?
(ハヤト)RYOT 33はラインナップの中で一番軽くレスポンスがよい印象です。かと言って変な癖もなくフレームの特性をそのまま出し切ってくれる印象です。
ヒルクライムを専門とする人とか、車輪によってフレームの特性を変えたくない人にオススメです。
RYOT 44は、33よりは重さを感じますが、実際踏んだ時には"使える重さ"を感じます。アップダウンの連続する区間や、パワーで勝負できる上りでは重さを推進力に変えられる特性を持っています。スプリント開始時の初速ではRYOT 33に引けをとりますが、 "かかり" 始めて5〜7秒後の一番大事な所で "伸び" を感じる時間が長く与えられる印象です。
前33/後44 にすることで少しRYOT 33の特性に近く、レスポンスよく反応が返ってる乗り味になりますが、RYOT 44が本来持っている "使える重さ" や "伸び" は少し薄れてしまいます。コーナーが多いクリテリウムや、傾斜のキツイ上りがあるコースや、ゴール前200〜300メーターが極端に低速になる場合、あるいは上りスプリントになる場合に使用したい組み合わせです。
素晴らしい分析力!さすがです!
(ケイゴ)でも、やっぱ使うのがいいし、RYOT 33と44を1セットずつ買うのがいいですよね。
そりゃ〜、うちにとってはそれが一番嬉しいw
まあ、確かにコースによって使い分けできるのが理想的だよね。
(ケイゴ)それだったらRYOT 33のセットを買って、44のフロントだけ追加で買いますとかで3本になる、っていう感じになるんじゃないですかね。
僕だったらそうしたい。最初から前後異ハイトで揃えるってなったら、僕もなかなかちょっと……だったら同ハイトのセットで買いたいかな、って感じですね。だから一本売りは良いですね。あとから前輪だけを足すとか、後輪だけを足すとかなら一般のお客さん的にも良いんじゃないかな、と思います。
貴重なご意見、ありがとうございます!
みなさん、ご協力ありがとうございました。
《過去の"プロに聞く"シリーズはこちら》
現役プロ選手に聞く《前編》:タイヤ
https://ffwdwheels.jp/blogs/hero/ask-the-pros-1
現役プロ選手に聞く《後編》:ホイール
https://ffwdwheels.jp/blogs/hero/ask-the-pros-2
プロチーム監督に聞く:ヒルクライム直前対策
https://ffwdwheels.jp/blogs/hero/ask-the-pros-3
プロチーム監督に聞く:ホイールの選び方
https://ffwdwheels.jp/blogs/hero/ask-the-pros-4
現役プロ選手に聞く:ホイール・タイヤ
https://ffwdwheels.jp/blogs/hero/ask-the-pros-5
《RYOT(ライオット)コレクションページはこちら》
https://ffwdwheels.jp/collections/ryot
そこまで酷い状況じゃなくても役立つ記事にすべく、自転車が右側に倒れた時に発生しやすいリアディレーラー周りのトラブル対処法をまとめてみました。「なんでホイール屋が?」と思われるかもしれませんが、トラブルを見過ごすとホイールにダメージが及ぶ危険があるからなんです。
自転車が右側を下にして倒れると、いい確率でリアディレーラーが路面に当たります。そうすると、取り付け基部にあるディレーラーハンガーが曲がったり、折れたりするんです。
ここが曲がると、リアディレーラーについている2つのプーリー(小さな歯車。上をガイドプーリー、下をテンションプーリーと呼びます)とカセットスプロケットの平行がずれてしまい、狙った段に変速できなくなったり、スプロケとスポークの間にチェーンが脱落してしまう恐れがあります。最悪の場合、軽いギアに変速した時にプーリーケージ(両プーリーを固定している枠)がスポークに巻き込まれ、被害を拡大することもあります(転倒、ハンガー折れ、スポーク折れ、ディレーラー破損、フレーム破損など)。
ディレーラーハンガーは金属製で、ある程度曲げられるものと、ほとんど曲がらずに折れるものがあります。交換可能なこの部品を犠牲にして、より大事なフレームを守る役割がありますので、ここを丈夫にしすぎては意味がありません。曲げられるものは曲げ戻せる可能性がありますが、直そうとトライした結果、より状況の悪い「折れ」に発展することも多いので、一度、冷静になりましょう。
愛車のピンチに気が動転して周りが見えなくなり、応急処置をしている間に、さらに事故にあったり、他の往来の迷惑になってしまうこともあり得ます。
まずは安全で迷惑にならない場所に避難してから、復旧を考えましょう。
応急処置は、少ない手数で最悪な状況を脱することができればそれでOK、という考え方もあります。本格的な修理は帰ってからショップにお任せ、というのも正しい切り抜け方の一つ。ぶっつけ本番で難しいことにチャレンジするのはリスクもあるので、まずは一番簡単な方法からご紹介します。
チェーン落ちや、ディレーラーがスポークに巻き込まれるのを阻止するためには、ディレーラーの稼働範囲を狭くすればOK。使えるギアは少なくなるし、変速性能は最悪かもしれませんが、なんとか走れるギアを探してピンチを切り抜けましょう。
本来は直付けディレーラーハンガー修正工具という専用工具を用いて曲げ戻すのですが、ここでは応急処置のやり方をご紹介します。上の方法より、失敗したときのダメージは大きくなりますが、上手くいけば元どおりストレスなく走れる可能性が出てきます。
この方法は、折りたたみ式の携帯工具ではできません。もし、適した工具がない場合は、ディレーラー本体を掴んで曲げ戻すことになります(1.、2.は上と共通)
折れてる!or 折れた!or 曲げ戻せなかった!という時には…
備えあれば憂いなし、ということで予備のディレーラーハンガーをサドルバッグに忍ばせておけば、ハンガーが折れてしまった時にも対応できます。ディレーラーハンガーはメーカーごと、どころかモデルごとに専用だったりするので、トラブルの際に運良く自転車屋さんが近くにあっても、適合する部品の在庫は、まずないと思った方が良いでしょう。持っておくとトラブル対応の幅が広がるのでお勧めです。
ディレーラーハンガーの取り付けネジは、携帯工具には含まれていない小さなサイズであることも多いので、交換用ハンガーを用意するなら、対応できる工具も一緒に用意しておきましょう。
ディレーラーハンガーを交換すれば完璧と思われがちですが、実際にはフレーム側の取り付け面の精度の問題(塗装が乗っているなど)で、新品のハンガーでも真っ直ぐにならないのは珍しくありません。プロショップでは新車組み立て時、ハンガー交換時、変速調整時にチェックして修正するのが当たり前、というところも多いです。ここではあくまでも応急処置なので、交換で完了としますが、ベストな状態に戻すなら後からショップに見てもらう方が良いでしょう。
1.でつまずいた場合は次の"最終手段"へ。
ディレーラーがぷら〜んとしているけど、ハンガー交換はできない!という場合には、シングルスピード化という最終手段があります。後輪にディレーラーを巻き込んだり、チェーンに落ちている枝などを巻き込んだりして、ディレーラーそのものが破損してしまった場合も、この方法しかありません(楕円チェーンリングの場合は諦めましょう)。
この応急処置には、チェーン切りという専用工具が必要です。携帯工具に含まれているものもありますし、携帯を前提とした小型の物もありますので、トラブルがあっても自力解決を迫られる場面(ケータイの電波が届かない場所、ロードサービスが来てくれない場所、セルフサポートのレースなど)が想定されるなら持っておいて損はありません。
最近は、完成車にもマスターリンク(ミッシングリンク、クイックリンク)が使われているものが増えていますが、シングルスピード化するならチェーンの長さを詰めなければならないので、チェーン切りは必須です。となるとミッシングリンクを外すより、他の部分で切ってアンプルピン(コネクティングピン)で繋ぐ方が、工具を減らせて有利かもしれません。
ここからが重要です。
シングルスピード化する時に、まず考えがちなのは「もう変速はできない。どのギア比にしよう?」ということ。この先の行程をイメージして「あの坂、登れるかな?」とか「スカスカで進まないのは嫌だな〜」など。
これ、要注意です。「走れるだけマシ」の精神でいきましょう。
まず4.について解説します。多段変速の自転車は、チェーンを横方向へ押したり引いたりすることで脱線させます。ディレーラーなしでは変速できないのは当然なのですが、実はディレーラーがないと同じ段をキープするのも難しくなるんです。ディレーラーについているガイドプーリーは、スプロケットの手前にあって、チェーンの位置を制御する役割を果たしており、チェーンがチェーンリングの延長線方向に移動したがるのを抑えているんです。
ディレーラーが正常についている状態でも、クランクを逆回転させると、チェーンが勝手に他の段に入ったり、チェーンリングからチェーンが落ちてしまうことがありますよね。特にチェーンが斜めに掛かっている状態(アウターxローやインナートップはその両極端)だと、顕著にその症状がでます。これは逆回転だとガイドプーリーやフロントディレーラーが効いていない状態になるからです。
裏を返せば、逆回転した時にガチャガチャと音がしたり、勝手にチェーンが移動してしまう位置関係を避ければ、ディレーラーがなくても同じ段をキープできると考えられます。前後ギアの位置関係にもよりますが、フロントダブルなら最大で2通りのベストポジションがある、ということになります(写真ではフロント3枚の自転車を使っているので、理論上3通りあることになりますが、通常はセンターを選びます)。この位置を知っておけば、いざという時に慌てずに済むかもしれません。
ここが完璧でないと勝手に変速してしまい、5.の調整も無駄になってしまうので、十分注意しましょう。
もともと前後にギアが一枚ずつの自転車には、チェーンの張りを調整する機構が備わっていますが、多段変速の自転車をシングルスピード化する時には、ちょうど良いチェーンの長さにならないのが普通です。また、不思議と位置によって張りが強くなったり弱くなったりするので、少したるむくらいがちょうど良い長さです(写真の自転車はチェーンの伸びがひどく、横方向にもフニャフニャだったので、応急処置でなんとかするレベルではありませんでした。トラブルも二重苦、三重苦となると解決が難しくなるので、日頃のメンテナンスが重要です)。
長さ調整でチェーンを切る位置は、"ぴったりに最も近い(けど届かない)"+2リンクが目安となります。
上手くいけば、楽ではないかもしれませんが、なんとか目的地まで完走できるでしょう。
最後に、この記事を書くきっかけとなったユーザー体験談を、要約してご紹介します。
《Daichiさんの記事全文はこちら(外部サイト)》
→https://daichi-cross.hatenablog.com/entry/2023/03/02/002514
200kmブルベの休憩中、立てかけてあったバイクが強風で倒れ、ディレーラーハンガーが折れてしまった。リタイアも考えたが、同行者に運良くチェーン切りを持っている方がいて、シングルスピード化を決行。
残り約90kmのコースを念頭にギア比を選択したが、走り始めてすぐにチェーンが隣のギアに移動してしまった。脚に抵抗を感じるほどチェーンは張られ、異音も気になってはいたものの、トラブルをも楽しみに変えて無事完走!
その代償がこちら↓
チェーンが乗っていた歯が、フリーボディーの山を食いちぎりそうになっています。多少、重たいギアを踏むことになったとしても、チェーンにゆとりがあれば、ここまで食い込むことはなかったと思われます。山の両側に噛み込みの跡が見られるので、チェーンのローラーがカムのように作用して、歯を逆方向に押し戻す動きも加わっていたのかもしれません。
ロードバイクでも珍しくなくなってきたチューブレスレディ。他のシステムにはないメリットが数多くあり、プロレースの世界にも広がりを見せています。
気密性を確保するために重要なリムテープの貼り方や末端の切り方については、様々な方法があって、極論すれば、しっかり貼り付いて気密性があり、剥がれにくければ何でも良いのですが、この記事では先達の知恵と、細かすぎる考察から「"究極の"チューブレス用リムテープの貼り方」を模索します。
]]>空気を保持するチューブがないため、専用リム、専用タイヤに加え、シーラントと呼ぶ液体を用いて、各部の隙間を埋めています。一部のメーカーには穴のないリムもありますが、一般的なスポーク穴(正確にはニップル穴)の開いたリムでは、チューブレス専用のリムテープを貼って穴を塞ぐことになります。
気密性を確保するために重要なリムテープの貼り方や末端の切り方については、様々な方法があって、極論すれば、しっかり貼り付いて気密性があり、剥がれにくければ何でも良いのですが、この記事では先達の知恵と、細かすぎる考察から「"究極の"チューブレス用リムテープの貼り方」を模索します。
《チューブレスのメリット、デメリットについて詳しくはこちら》
https://ffwdwheels.jp/blogs/technology/benefits-of-tubeless-tires
《プロ選手に聞くチューブレスタイヤのセッティングについてはこちら》
https://ffwdwheels.jp/blogs/hero/ask-the-pros-1
油分を含まない清潔なウェス(毛羽落ちしにくいマイクロファイバークロスやペーパーウェスなど)にアルコールを含ませ、リムベッド(リムテープを貼る面)の汚れや油分を拭き取ります。
この一手間で、リムテープ貼りの成否が大きく変わることもあります。新品のリムでも意外と汚れているので、絶対に外せない手順です。
テープの終点がホイールの上側にある時に、進行方向に対し後ろを向くように貼ると、テープ末端に浮きが生じても、シーラントが粘着面に入り込もうとするのを抑えることができる、と考えられます。これ、愛三工業レーシングチームの鈴木 譲 選手も実践しているそうです。
末端の処理は色々な意見があるとして、最近実践してるのは末端がホイールの進行方向と逆を向いてシーラントを撹拌しない方向に終わる様な向きで貼ってます。 https://t.co/StBcBIqpFW
— 鈴木 譲 (@yuzuru_suzuki) February 1, 2023
ディスクブレーキ用のホイールなら、ブレーキローター側(反ドライブ側)を手前にして、左から右に向かって貼り進めると、終点が後ろを向きます(左利きの場合は、全部逆にするとやりやすいと思います)。
リムテープの貼り始めの位置(起点)は、バルブ穴から5〜7cm離れたところに設け、貼り終わりの位置(終点)は、起点を通り越してバルブ穴の反対側に5〜7cm離れたところに設けるのが一般的です。こうすることで、バルブ付近では10〜15cm程度、リムテープ同士が重なるようになります。
この貼り方は、重なり合うテープをバルブの根元で押さえる形になるので、万が一、末端が剥がれてきても途中で止めることができ、スポーク穴の露出を回避できるメリットがあります。
一方、バルブ穴とは反対側に起点、終点を設ける貼り方もあります。
タイヤ方式に関わらず、空気の出し入れをするためにはバルブが必要です。このバルブは、ホイール一本につき一つしか付いていないので、回転質量に偏りができます。それをリムテープの重なり部分の重量でバランスを取ろうという考え方です。実際には、バルブの重量が数グラムあるので、完全なバランスは取りきれませんが、FFWDのオランダ工場では、この貼り方を採用しています。
では、どちらが良いのか?
チューブレス運用時には、タイヤビードがリムテープの両サイドを押さえてくれるので、タイヤ装着時に正しくリムテープが貼られていれば、起点、終点の位置に関わらず、スポーク穴が露出するほど完全に剥がれてしまう心配はないと言えます。クリンチャー運用時には、チューブが全体的に押さえてくれるので、元々リムテープがめくれてしまう余地はありません。
オランダ本社でも「どっちから貼っても問題なし!」という見解です。製品はカウンターバランス方式、マニュアルはバルブ側を指示、と本当にどっちでも良いんだな、と思わせてくれます。
ただし、繰り返しタイヤを着脱するような場合には、バルブが物理的なバックアップとなってくれる前者の貼り方が安心できる気がします。シーラントが粘着面に回ってしまうと再接着はほぼ不可能で、一度テープが剥がれ始めると、あとは悪くなる一方だからです。
このため、日本で組んだJ-SPECモデルや、弊社で修理をする際には、私の心配性もあってバルブ側に起点、終点を設けています。
バルブ穴を中心に5〜7cm(またはテープの重なりが10〜15cm)という目安はあるものの、測る必要はまったくありません。スポーク本数によって塞ぐべき穴の位置は異なるので、現物合わせで長さを決めるのが一番です。合わせ方としては以下のような感じです。
テープの末端付近が穴にかかっていると密着させにくいので、貼り始めの位置は、隣り合う穴どうしの中間点が良いでしょう。バルブ穴から数えて、左右にそれぞれ1つ目と2つ目の穴の中間に起点・終点を設けると、24本スポークの場合、リムテープの重なりは16cmほどになります。 リムテープの重量は非常に小さいので、重なりが多少、大きくなっても乗っていて体感することはないでしょう。
テープの粘着面に様々なテクノロジーが注がれているのは、容易に想像がつくと思いますが、実は背面側にも工夫が凝らされています。荷造り用のテープなどでは、梱包作業者のストレスになりがちな、テープを引き出すときの「ヴィイイイイイ」という音を小さくするための背面処理が施されていたり。
リムテープも何かしらの背面処理(ロゴのプリント含む)がされていて、それが原因でテープ同士のくっつきが悪くなる場合があります。
貼った直後は問題ないのですが、時間が経つと浮き上がってしまうことがあるので、予防の意味も含めて、重なり合う部分のテープ背面をアルコールで脱脂すると良いでしょう。
また、リムテープは平らではない面に貼っていくので、接着面に空気が閉じ込められてしまうことがあります。リムに直接触れている部分では、スポーク穴に向かって気泡を押し出すことができますが、テープ同士が重なり合う部分では、気泡を逃がすのが難しくなります。テープを貼る時に、よれたり緩んだりしないよう、真っ直ぐに軽く引っ張りながらリムに対して位置を決め、反対の手(指の腹)で空気が入らないように押さえるようにしましょう。この時、素手だと指先が痛くなるので、グローブをするか、ウェスなどを指先に巻くと良いです。
メーカーによっては、ロードなどの高圧使用時には二重巻きを推奨しているところもあります。FFWDでも旧式のロゴなしテープでは、二重巻きをお勧めしています。テープ素材が高圧向きでない場合、テープがスポーク穴に落ち込むように窪んでしまい、穴の縁でテープが傷付いたり、窪みになったところが伸びすぎて裂けたりして、空気が漏れることがあるからです。
最近のロードホイールについてくるようなリムテープなら、重ね貼りをしなくても高圧に耐えられるものが多いですが、定期的なチェックは怠らないようにしましょう。テープの点検や交換は、タイヤ交換時、またはシーラント入れ替えのついでにおこなうのがお勧めです。
タイヤとリムの相性によっては、空気が入りにくいことがあります。そんな時にはリムテープを二重貼りして外径をわずかに大きくし、ビード(タイヤの縁)との隙間を小さくする方法があります。それでもゆるい場合は、そもそもあまり良い組み合わせではないのかもしれません。他のタイヤを使用する方が安心です。
リム内に高圧の空気が勢いよく流れ込むと、圧の逃げ道が小さいのでリムが膨らんで割れてしまうことがあります。カーボンリムなら、チューブを入れて使用する場合でもチューブレス用リムテープを使用するのが安心です。
剥がれにくいリムテープ末端の切り方は?というのがこの記事を書くことになったきっかけでした。まずはツイッターでのアンケート結果を見てください。
チューブレスリムテープ末端の切り方、実態調査
— FFWD Wheels-Japan (@FfwdJapan) February 1, 2023
チューブレスレディを実際に運用している方、ショップ等で実際に作業をされる方にお聞きします。(そうでない方向けに意識調査も別途あります)
どんな切り方をしていますか?
結果を見ると、シンプルな「直角に直線切り」が最も多い回答でした。この切り方の最大のメリットは、シーラントに触れる切断面を短く抑えられること。粘着面がシーラントに侵されるリスクを最小限に止めることができる、と考えられます。作業性の面でも有利で、刃渡りの短いハサミでも一発でスパッと切ることができ、片手が塞がった状態でも切り損じがありません。
次に多かったのは「斜めに直線切り」。断面が長くなることで、複雑にカーブするリムベッドに密着させやすく、浮き上がりにくいと考えられます。ただし、鋭角に切りすぎた場合には、尖った部分の接着面積が小さくなりすぎてズレたり剥がれたりするリスクが出てきます。
少数派だった角丸や半円加工は、絆創膏やステッカーなどで角が引っ掛かってめくれるのを防ぐためによく使われていますが、タイヤの中に収まっているリムテープの場合は、引っ掛かるような外的要因がないので、かける手間の割りに合わない気がします。
頂点がリム中央にくるような三角は、リムベッド底のアール形状に逆らわないということ以外はメリットが思い浮かびません。テープの両サイドはビードで押さえられた状態になりますが、突出した中央部分は接着面積が小さい上に、ビードで押さえられることもないのでペロッと剥がれやすくなります。切り口も長くなり、シーラントに触れることによる悪影響が出やすいと懸念されます。
三角形の頂点をつまんで引っ張りながらテープを密着させ、最後に頂点を切り落として台形にする、という方法なら、鋭角を作らないので接着面積の減少を抑えつつ、指先の皮脂が粘着力を低下させる心配も解消できて一石二鳥かもしれません。ただし、両サイドがビードで押さえられることをメリットと捉えるなら、三角、台形、半丸はいずれもその恩恵を受けられないと言えます。
選択肢にはありませんでしたが、斜め切りの派生型として、鋭角になった頂点を逆から斜めに切り落とす「頂点ずらし三角形」とでも呼ぶべき切り方をしているメカニックさんもいました。手数は増えますが、これもありかもしれません。
重要なのは「剥がれにくく気密性が確保できれば何でもOK」ということ。貼り方、切り方に唯一の正解はありません。また、裏を返せば「一見、マニュアル通りでも、気密性が保てないならダメ」ということでもあります。
たかがテープ貼りですが、ダメだったときのリスクやコストを考えると、プロに任せても決して高くはない作業です。
ここからは、日々お客様のニーズに応えるべく、サービスを提供しているプロ向けの内容になるかもしれません。
実は、上のアンケートと並行して、チューブレス経験の有無を問わず「どんな切り方が良いと思うか?」というアンケートも実施していました。下の結果をご覧ください。
チューブレスリムテープ末端の切り方、意識調査
— FFWD Wheels-Japan (@FfwdJapan) February 1, 2023
どんな切り方が、密着性が高く剥がれにくいと思いますか?
(チューブレスにしたことがない方もご参加ください。)
選択肢にない回答はコメント欄へ。
チューブレス経験者が最も信頼を寄せる「直角に直線切り 」と同率で、「斜めに直線切り」が支持されています。「三角・台形」は一番不人気。
興味深いのは、約2割の回答者が、チューブレス経験者には不人気だった「曲線切り」を選んだことです。ステッカーや絆創膏では当たり前の角丸加工は、「角があると剥がれやすい」というイメージを、しっかりと我々の脳に刷り込んでいます。角には応力が集中しやすく、角を擦ったり、引っ掛けたりすると剥がれやすいというのは間違いではないので、選ぶ人が多いのも納得できます。盲点なのは、テープがタイヤの中にあって、しかもビードで押さえられており、絶えず擦られたり引っ掛けられたりする環境にない、ということ。
高い割合の方が曲線切りに期待を寄せているので、角丸加工がないと「あの店は分かってない」と思われてしまうかも。かと言って、必要ない加工を施すのも手間が惜しい。そんな時はどうすれば良いのか?
この記事を読んでもらってください。
ホイール剛性をメリットに感じる人と、デメリットに感じる人がいて、何が正解なのか分かりにくいってこと、ありませんか? この記事では、ホイールの剛性に関する様々な疑問にお答えします。
]]>この記事では、ホイールの剛性に関する様々な疑問にお答えしたいと思います。
剛性は「曲げたりねじったりする力に対して、どのくらい変形しにくいか」を表しています。 ホイールの剛性は、リムの剛性(どれだけたわみにくいか)と、スポークの本数(何本のスポークで荷重を受け止めるか)で決まります。剛性の高いリムは局部的な荷重を広い範囲に分散することができ、その範囲のスポーク本数が多ければ、一本当たりの変形量を抑えることができるからです。スポークの太さ(=伸びにくさ)や長さ(短い方が伸び量が小さい)も車輪の変形を抑える要因になります。
ひとくちに剛性と言っても、みんなが同じことを指しているとは限りません。ホイールの剛性に関する議論で意見が食い違うことが多いのは、好みの違いもあるかもしれませんが、往々にして、どんな力に対する剛性を議論しているのかを明確にしそびれてしまうからだと思っています。そこで、ホイールにかかる力の向きに応じて、縦剛性、横剛性、ねじり剛性に分けて考えてみることにします。
ホイールを立てた状態で、軸に垂直方向の力を加え、軸が地面にどれだけ近付いたかを測定すれば縦剛性がわかります。
縦剛性が高いホイールは、路面からの突き上げをフレームに伝えやすいので、乗り心地を説明する因子になり得ます。ただし、ホイールと路面との間にはタイヤがありますし、ホイールとライダーの間にはフレームやシートポスト、サドルがあるので、ホイールの縦剛性だけで乗り心地が決まるわけではありません。
むしろ「乗り心地の良さをホイールの縦剛性に求めるのは、ベッドの寝心地をベッドフレームに求めるようなものだ」とも言えます。タイヤの太さやしなやかさなら、変更のコストも低く選択肢も豊富ですし、それを活かす空気圧の調整なら納得いくまで何度でもタダ!
個人的には、機材の軽量化やエアロの議論で「体重を落とす方が効果的」とか「体の面積の方が大きいから無意味」という結論の出し方が大嫌いで、ベッドを選ぶならマットレスもフレームもこだわりたいタイプなので、ホイールの乗り心地を吟味するのも悪いことではないと思います。
ただ、縦方向の荷重はスポークの張りを弱める方向に作用するので、ホイールの縦剛性が体重や乗り方に対して低過ぎたり、元のスポークテンションが低すぎると、意外なほど簡単にスポークがたるみます。張りを失ったスポークは、リムとハブを繋ぐヒモ程度の仕事しかしないので、強度や耐久性が著しく低下します。段差などでサスペンションのような沈み込みを感じるホイールは、壊れやすい、壊れかけている、すでに壊れている、のいずれかに該当しているかもしれません。
スポークテンションは強度の決定要因です。適正スポークテンションの範囲では、高くても低くても乗り心地が変わることはありません。スポークテンションを変えることで乗り心地が変わるとしたら、適正範囲を超えた調整になってしまっている可能性があります。ちなみに、スポークテンションメーターの換算表に記載された最小値と最大値の間が適正範囲だと誤解されやすいのですが、あれはその工具の測定可能範囲を示しているだけで、実際の適正範囲はそんなに広くありません。
ホイールを立てた状態でハブ軸をガチガチに固定し、路面と接する位置でリムを真横に引っ張ったときに生じるリムの位置変化を測定すると、横剛性がわかります(下の図はホイールを寝かせ、重りを垂直にぶら下げていますが、同じことを表しています)。横方向の荷重は、コーナーでバイクを寝かせる時や、ダンシングでバイクを振るときに発生します。
車輪がヨレヨレでは安定しないので、当然、かたい方が有利になります。リム自体の剛性(ワイドリム有利)、スポーク本数(多い方が有利)、スポークの太さ(太い方が有利)、ハブフランジ間の幅(これを底辺にして左右のスポークが作る三角形が幅広だと有利)が横剛性に影響を与えます。
ダンシングするとリムがブレーキシューに擦るとか、ホイールマグネットとスピードセンサーが当たるという症状が出たときに、ホイールの横剛性不足が疑われがちですが、実はフレーム側の問題であるケースがほとんどです。もちろん、ハブにガタがあったり、車輪の固定が甘ければ、こういった症状は出ますが、剛性以前の問題です。下の図でそれぞれの違いがイメージできるでしょうか。
車輪が回転するとき、ハブの回転とリムの回転は完全に同期しているように見えて、実はごくわずかにズレがあるんです。ハブを固定した状態で、リムに回転方向の荷重を掛けると生じるそのズレを測定すると、ねじり剛性がわかります。
ハブとリムの間にねじれが生じるのは、ペダルを踏み込んで推進力を得ている時と、ディスクブレーキの制動時です。リムブレーキ用のロードホイールでは、前輪にラジアル組(スポークを放射状に配置する組み方)を採用することが多いのに、ディスクブレーキでは見かけないのは、ラジアル組ではねじり剛性が得られないからなんです。後輪や、ディスクブレーキの前輪はタンジェント組(スポークをハブの接線方向に配置する組み方)にすることで、駆動力や制動力を効率的に伝達しています。
ねじり剛性の低さは、ペダルの踏み込みに対するたわみや、車輪の回転が遅れてくるようなタイムラグとして知覚されることがあります。踏み込みに対し、期待するほど車輪の回転がついてこないので「重い」と錯覚してしまうことも。
たわみのおかげで、ギクシャクしたペダリングに対しては寛容で、路面の凹凸などで車輪の回転が一定しないときにも、脚に優しく感じるかもしれません。また、タイムラグをポジティブに捉えれば「踏み込みのピークを過ぎた後にスポークの伸び戻りによる推進力が感じられる」と表現することもできます。
ねじり剛性が高いホイールは、踏み込みに対する反応速度が早く(レスポンスが良い)、変形によるロスが少ないので、踏んだ分だけスピードに乗っていきます。加速性能はホイール外周部の重量に依存する度合いが大きいのですが、回転数の変化に必要な力の大きさを決めるのが重量、その力の伝達効率や伝達スピードを決めるのが剛性、と分けて考えると様々なホイールの特徴を細かく理解することができるのではないでしょうか。
ここまでは、ホイールの剛性について細かく見てきましたが、今度は少し"引き"で見てみましょう。ちょっと感覚的な話になります。
足の裏で踏み込んだ力が、タイヤの接地面に到達するまでの間には、ペダル、クランクアーム、チェーンリング、フレームのたわみや、ドライブトレイン摩擦などの機械的ロスがあり、やっとホイールが出てきて、最後にタイヤの変形となります。ホイールだけを変えて、フィーリングの比較をすることは可能ですが、システムとしての"剛性感"と、ホイール単品の剛性は、高い相関関係にあるものの、同じではないような気がします。
雑誌の乗り比べインプレなどでは、他の機材を全く同じにして、ホイールの差だけを見るようにしています。でも「機材を揃える=条件を揃える」とならない場合があるのも事実です。例えば、リム幅が違うホイールに、同じタイヤを同じ空気圧でセットしても、タイヤの膨らみ方は同じになりません。
また、どこかに突出した特徴があると、その強烈な印象によって他の小さな差が見えなくなったり、違う見え方をすることってありませんか? 美人だと、性格の悪さまでプラスに感じてしまうとか(個人の感想です)。
英語の慣用句には、"a chain is only as strong as its weakest link"(チェーンの強度は最も弱いコマの強度で決まる)というものがあります。ひとコマだけを強化してもチェーン全体の強度は上がらないことになぞらえて、組織の力を上げるためには優秀な人材を一人追加するより、全体の底上げを図った方が良いことの例えとして用いられます。自転車においても、良いホイールは確実に走りをプラスの方向に進化させますが、最終的な乗り味は、各部のバランスの上に成り立つシステムとしての乗り味です。部分最適=全体最適とはならないこともありますし、必ずしも各部の積み上げにはなりません。インプレやレビューも参考にはなりますが、自分の感覚や機材と一致しないことも多いはずです。
「それじゃホイールなんか選べない!」と、なりそうですが、心配は要りません。「何を選ぶか」も大事ですが、「どう付き合うか」でパフォーマンスも満足度も大きく変えることができるんです。
ホイールを変えると、走りがガラッと変わります。プラスの変化ばかりなら嬉しいのですが、今までなかった違和感に遭遇することも珍しくはありません。そんな時は、ヘアスタイルに合わせて洋服の着こなしをちょっと変えるくらいの気持ちで、ホイールの特徴にテクニックやセッティングを合わせていきましょう(サラサラのロングからゴリゴリのパンチパーマみたいな変化には、それなりの対応が必要になります)。
表現自体が漠然としていて、同じ"脚にくる"でも100人いれば100通りの解釈がありそうですが、ざっくりと①エネルギーの枯渇、②反力によるダメージに分類してみます。
疲労によってフォームの乱れや、動作のばらつきが出てくることもあるでしょう。①と②が負のスパイラルとなってライダーを苦しめます。ライド後半に脚が残せないのは、ホイール剛性の問題だけではないかもしれません。
ここまで、かなり細かくホイール剛性と、その付き合い方について見てきました。もしかしたら、細かく見すぎたかもしれません。
横剛性に関しては目視できる差が出ることはありますが、縦、ねじりに関しては差があったとしても、その変形量は、かなり小さいことも覚えておくと良いでしょう。
現時点の体力やスキルにぴったり合うホイールを見つけた時の喜びは、とてつもなく大きいですが、体力やスキルは変化するものです。好みだって歳と共に変わりますよね。ぬかるんだ沼の淵を歩くスリルも良いですが、この沼は深いので注意してください!
道具を使いこなすことも、機材スポーツの楽しみの一つです。「何を選ぶか」も重要ですが、「どう付き合うか」にも目を向けてみましょう。
最後になってしまいましたが、何を選ぶかで迷ったら、ファストフォワードにすることもお忘れなく。
]]>FFWD(ファストフォワード)伝統のホイール製造プロセスと、使用する部材の特徴についてまとめた秘伝のレシピを公開します。
]]>多くの人にとっては、自転車のホイールなんて、あって当たり前で、それ以上に注意を払うべき存在ではないかもしれません。でも、しばらく自転車にのめり込んで、かの有名なサイクリングウィルスに侵されてしまうと、色んなところが気になり始めます。サドルの違い、ポジションの違い、タイヤ、ホイール…あらゆる情報源を読み漁り、貪欲に知識を求めるようになります。
どんなホイールも、(基本的には)同じような工程で製造されます。また、どんなホイールも(基本的には)リム、ハブ、スポーク、ニップルという同じ部品で構成されます。どんなホイールも同じ要素で成立しているので、各部品の品質レベルが最終製品に与える影響が大きいことは言うまでもありません(ファストフォワード秘伝のレシピは後半に)。でも、最大の差別化要因は、目に見えない部分で、全く気づかれないことが多いのです。そう、そこにかけた時間です!
我々が誇るマスターホイールビルダーたちの技術や経験と、彼らが費やす時間こそが、他の車輪を圧倒するファストフォワードのホイール造りに、欠かせない要素なのです。部品同士を繋ぐだけでも車輪にはなります。うまくいけば、まともなホイールだってできるかもしれません。しかし、職人芸と呼ぶレベルの仕事では、そこに掛ける時間と労力の差が、"普通"と"最高"とを分けるのです。
ホイールを形にする上で重視しているのは、組み付けた全てのパーツが、本当にきちんと収まっていること。まず、ハブにスポークを通し、リムにスポーク位置を合わせるところまでは完全手作業で行います。ここから機械の手を借りて、ニップルを取り付け、第一段階のテンションをかけていきます。
第一段階のテンションをかけることで、ニップルがスポーク穴に対して適正な位置に収まります。ファストフォワードが手がけるカーボンリムは、スポーク穴周辺に補強のカーボンシートを追加することで、より高いスポークテンションに耐える特別仕様。さらに、組み合わせるハブとスポークパターンに合わせて、スポーク穴をドリリングしています。穴の向きを最適化すると、ニップルはハブに向かってまっすぐ引っ張られるので、リムにクラックが発生するような無理な負荷を抑えることができ、スポークの長寿命化にもつながります。
この"仮組み"とも言うべき段階で、一旦、手作業でスポークテンションを確認します。全てのスポークにかかる張力が揃っていることが、最高のホイールに仕上げる上でとても重要なでのす。
いよいよホイールは「振れ取り」の工程を担う次の機械に投入されます。
この機械には、ホイールモデルごとに専用のプログラムが設定されており、ファストフォワードの高い品質基準を満たす、厳しい精度要求に応えます。また、スポークに負荷を掛ける"馴染みだし"機能も組み込まれいています。ご存知かもしれませんが、ホイールにライダーの入力があると、スポークが引き延ばされるような力が発生します。新品のホイールを使用し始めると、スポークにかかる負荷によって、ハブとスポークの接点や、リムとニップルの接点で部材同士の収まりが良くなることがあり、スポークがたるんだり、当初のスポークテンションが失われ、"振れ"などの狂いが生じます。製造工程で馴染みだしを行うことで、「数回乗っただけなのに、ひどく振れてしまった」といったことが起きるリスクを大幅に軽減します。
ホイールが組み上がると、別のマスターホイールビルダーが一本ずつ手作業で最終調整を行います。このホイールを購入するお客様が、やりたいこと全てに自信を持って挑めるように。
機械を使った部分でも、掛ける時間で大きな差が生まれます。実は同様の機械を用いて、もっと短時間に製造されるホイールもあるんです。シティーバイク(いわゆるママチャリ)のホイールなどがそうです。ハイエンドのカーボンホイールとは、品質基準も使われ方も、全く次元が違います。となると、製造にかかる時間も全く異なることは容易に想像がつきますよね。精度をちょっと下げれば、我々ももっと多くのホイールを製造することができます。でも、それはしたくありません! 製造に多くの時間を掛けることの価値を明確に認識し、意識的に選択しているのです。
ここに掛ける時間は、つぎ込む全ワットを推進力とスピードに変換したいスプリンターのため。
ここに掛ける時間は、石畳を跳ね回るクラシックレースの猛者のため。
ここに掛ける時間は、仲間と週末のライドを楽しんだり、山奥の峠道を旅したり、楽々とはいかないグラベルに挑みたいあなたのため。
掛けるのに値する、価値ある時間なのだと。
ホイールを構成する部品は、リム、ハブ、スポーク、ニップルといった具合に、どれも基本的には一緒です。ファストフォワードでは伝統的に、自らの品質基準に合致するハイエンドパーツを選択してきました。
ファストフォワードのリムは、自社で設計、開発を行い、自社基準に合わせて製造します。どこかの吊るしの商品を買ってきて、ロゴだけ貼り付けるようなことはしません。数少ないカーボンホイール専門メーカーの草分けとして、耐久性にこだわり、デカールは常にクリア塗装の下に貼り付けてきました。最近では、同じ理由でカーボン地に直接、焼き付けています。
ハブは創業時よりDT Swissと提携し、お求めやすい価格のオリジナルハブも実現させています。DT Swissは自転車業界内でも長い歴史のある企業として知られ、ハブのクオリティーには定評があります。
定評があると言えば、スポークもDT Swiss、およびSapimから調達しています。両社とも、同等に高品質なスポークとニップルを供給してくれます。数あるラインナップの中から上位グループのスポークを、ホイールのモデルや用途に応じて選びます。時にはホイールの特性に合わせて(例えば、剛性を上げるために)複数のモデルを組み合わせることもあります。また、ニップルに関しても高いクオリティーを追求するのはもちろんですが、調整が必要になった時に頭痛のタネとなる柔らかすぎる素材は、避けるようにしています。
ファストフォワードでは、必ずしも最軽量となる素材選びを良しとはしません。ホイールの耐久性も外せない機能だからです。メンテナンス性の良さや最終的なバランスを優先するために、わずかに重量増となる選択肢を取ることもあります。
長持ちすることのメリットは、買ってすぐに感じることができませんが、「そう言えば、だいぶ長いこと使っているなぁ」と振り返る時には、その恩恵を享受していたことに気がつくことでしょう。
タイヤのチューブレス化には、パンクのリスクを下げる以外にも、乗り心地やグリップ性能の向上、転がり抵抗の低減など様々なメリットがあるんです。
文字通り、チューブが無いのがチューブレスです。
チューブラーも、従来からの一般的なクリンチャーも、タイヤを膨らませる時には中にあるチューブに空気を入れます。一方、チューブレスはチューブが無いため、直接タイヤに空気を入れることになります。そのままでは空気が抜けていくので、シーラントという液体で気密性を確保します。
シーラントを使用することを前提としたチューブレス方式を、特に「チューブレスレディ」と呼びます。シーラントを使わずにチューブレス化できるタイヤとリムの組み合わせも世の中には存在しますが、FFWDが採用するのはチューブレスレディのシステムです。
チューブレスがパンクに強いというのは、聞いたことがある思います。でも、頭の片隅で「本当にそうなのだろうか?」と半信半疑に思っているなら読み進めてみてください。パンクには大きく分けて3種類あります。それぞれの特徴を知れば、チューブレスのメリットをより深く理解し、同時にその限界も分かるので、深掘りしてみましょう。
3種類のひとつ目はタイヤの外から異物が刺さることによるパンク。ガラスやプラスチックの破片、ネジ、釘、画鋲、ホッチキスの針、どこから来たのかわからないような金属片、樹木や植物のトゲや木っ端など、道路には実に様々なものが落ちています。
タイヤ自体の耐パンク性はゴムの厚さや、ケーシング(内部の繊維層)の強度、コンパウンド(ゴムの配合)の差、耐パンクベルト(異物の貫通を防ぐ高密度に織られたリボン状の繊維)の有無や性能などによって決まるので、チューブレスか否かは本質的な差になりません。気密性確保のためにチューブと同じブチルゴムの層を裏側に設けた純チューブレスは、増加したゴムの厚みによって、異物が貫通しにくくなりますが、チューブが無いことのメリットとは言えません。差が出るのは貫通した後です。
タイヤに比べて薄くしなやかなチューブは、タイヤよりも細く作られているので、空気を入れれば風船のようにさらに薄く伸ばされて膨らみます。そこへ異物が貫通してくると、ゴムの幕が裂けて一気に空気が噴き出し、その勢いでさらにチューブの裂け目が大きくなることもあり、空気圧は一瞬で低下します(貫通するのが細い針のような異物の場合には、極小の穴からゆっくりと空気が漏れ出すスローパンクという状態で済むこともあります)。チューブ以外には気密性がないため、チューブに穴が開いてしまうとタイヤの穴以外からも空気が抜けてしまいます。タイヤとリムの間からタルク(ゴム同士の摩擦や貼りつきを抑える白い粉)が噴き出した跡を見たことがありませんか?
一方、チューブレスの場合は、ビード(タイヤ内周の縁)とリムがしっかりとはまるようにできており、リム内部にも空気が漏れ出さないようになっているので、ビードが外れるほどベコベコになるまでは、タイヤの穴以外から空気が漏れることはほとんどありません。また、ゴム膜がチューブに比べ厚く硬いことに加えてケーシングで補強されているため、穴が拡大してしまうリスクも低く、刺さった異物が残っていればそれ自体が栓になって空気が抜ける速度を抑えてくれます。
さらにチューブレスレディなら、隙間を埋めて気密性を高めるシーラントが、タイヤを貫通するような穴も自動的に塞いでくれます。多少の気圧ロスより停車して修理をするタイムロスが痛いというシチュエーションでは「本当にチューブレスで良かった!」と思えるでしょう(パンクに気が付かないこともあるほどです)。シーラントでは塞げないほどの穴が開いてしまった場合は、スタンズのダートツールのようなパンク修理用プラグを持っているとピンチを切り抜けられます。
パンクのタイプ、ふたつ目はリム打ちです。縁石や道路上の穴など、段差に勢いよく突っ込んだ時に、段差の角とリムの間にタイヤがつままれた形で挟まってしまい、穴が空いてしまうパンクです。路面側とリム側の上下2か所、さらに左右で合計4か所一気に穴が開いてしまうことも。英語では"つまむ、つねる"を意味するピンチにパンクを意味するフラットを組み合わせてピンチフラットと言ったり、穴が蛇に噛まれた跡に似ていることからスネークバイトと呼んだりします。チューブのゴム膜は薄いので、力の逃げ場がなくなるリム打ちの状況では、簡単に穴が開いてしまいます(リムの縁の形に合わせて裂けてしまうこともあります)。
チューブレスなら、ゴムも厚く、比較的硬い上にケーシングによって補強されているので、よほどのことがない限り穴は空きません。ゴツンとした衝撃は来ますし、リムにも優しくはないので避けるに越したことはないですが、チューブが無いおかげで、低圧でもパンクしにくくなっています。最近ではワイドタイヤ化によって、路面とリムの物理的距離が大きくなっていることから、クリンチャーでもリム打ちのリスクは減ってきていると言えますが、どこまで空気圧を下げられるか、どれだけ穴が空きにくいかという点では、依然として、チューブレスの方が安心できます。
パンクのタイプ、ラストは内側から発生するパンクです。チューブレスであることが差を生むのは、強いて言えば、タイヤの変形に伴うチューブの摩耗パンクと、リムの熱によってチューブが溶けるパンクの2パターンです。
パンクするほどチューブが摩耗するのは、よほど低圧で走り続けない限り起きないので、ロードバイクではあまり見かけません(いわゆるママチャリではポピュラーなパンク原因の一つです)。チューブにタルクがはたいてあったりすることでさらにそのリスクは軽減されます。チューブレスなら全く心配しなくて良いパンクですが、適正空気圧で乗られる前提のスポーツバイクでは、メリットというほどチューブレスの優位性はないかもしれません。
熱による溶解は、リムブレーキとフルカーボンクリンチャーの組み合わせで起きるパンクです。カーボンはアルミと違って放熱性が悪く、むしろ熱を蓄えがちなので、ハードなブレーキングや長時間のブレーキングによってかなりの高温になります。ラテックスチューブは特に耐熱性が低いため、リムが高温になった時に溶けてパンクする恐れがあります。カーボンを成形する際に使用されるレジンは、この10年ほどの間にもかなり進歩して、高温にも耐えるようになってきました。それでもブレーキのかけすぎやホイールの振れ、ブレーキの調整不良や適合しないブレーキシューの使用により、リムを変形させてしまうほどの高温に達することは現在でも起こり得ます。熱で結合が緩んだところにチューブ溶解による爆発的な空気の噴出が加わればリムが割れてしまうこともあるので、リムブレーキのフルカーボンクリンチャーではラテックスチューブの使用を禁止しているメーカーがほとんどです。
チューブレス有利という文脈からは外れますが、リムテープの劣化によってパンクが誘発されることもあります。クリンチャーの場合は、リムテープが固くなって"ささくれ"のようになってしまうと、それがチューブを傷つける原因となることも。ただ、一番多いのは、内圧に負けてスポーク穴にテープが落ち込んでしまうこと。テープの伸びの限界を超えて裂けてしまったり、スポーク穴の縁がチューブに鋭角に当たるようになるとパンクします。また、リムテープに穴が開いたり、気密性を保てなくなると、チューブレスでもパンクしてしまいます。リムは、タイヤが収まる部分はかなり頑丈にできていますが、サイドの部分は薄く整形されており、リム内に勢いよく空気が流れ込むと、積層したカーボンが剥離したり、破裂したように大きく割れる恐れがあります。数ヶ月に1回はリムテープの状態もチェックし、傷んでいたら迷わず交換してください。
タイヤは転がる時に接地面付近で変形します。タイヤが潰れるように変形する時には、中の空気がバネのように圧縮され、荷重が抜ければ復元するというサイクルを繰り返します。さらに細かく見ると、タイヤのゴム自体も変形を繰り返しています。ゴムには力を加えると少し遅れて変形し、力が抜けるとさらに遅れて元に戻るという特性があります(現象としては、低反発まくらを手で押すとじわーっと沈み込み、押す手をパッと離すと沈んだ時よりさらにゆっくりと元に戻るのに似ています)。
空気バネの圧縮と復元は、ほとんどタイムラグが無いので、潰れる時に蓄えた力を復元する時に返してくれますが、ゴムはエネルギーを奪いながら変形するのに、復元する時には全部を返してくれません。これはチューブにも当てはまるので、チューブ一枚分のゴムが不要なチューブレスなら、微々たるものではありますが、それだけエネルギー損失が少ないということになります。さらに、チューブとタイヤは厚みや硬さが違うので、それぞれ違う動きをして摩擦を生みます。この摩擦もエネルギーの損失なので、チューブレスはその意味でもロスが少ないと言えます。
変形量を少なくすれば、転がりに伴うエネルギーロスは幾分、回避できます。空気圧を高くすれば、ある程度はタイヤの変形を抑えることができますが、今度は別の理由でもっと大きなロスを生むことになります。滑らかに見える舗装路も、実は細かな凹凸がありますよね。タイヤがこの凹凸を吸収するように走っている時には、比較的ロスが少ない状態と言えます。ところが、タイヤがパンパンで凹凸に乗り上げたり弾かれたりするようになると、バイクは小さく上下動を繰り返すことになります。前へ進みたいのに、漕ぐ力の一部が上へ登る力に使われてしまったり、タイヤが浮いて推進力が抜けたりします。体が揺さぶられると、無意識に筋肉が反応するので、振動によっても無駄なエネルギーを使ってしまいます。
一般的には高圧の方が速いと思われがちで、実際、板張りのトラック競技場や、転がり抵抗を測定する機械(滑らかな金属ドラムの上でタイヤを転がして測定)などでは空気圧が高いほど転がり抵抗は低くなります。しかし、路面にわずかでも凹凸がある場合は、一定の空気圧を超えるとロスの方が大きくなってしまうのです。しかもその分岐点付近では、ちょっと低めで損するエネルギーより、ちょっと高めで失う方が大きくなってしまいます。それでも空気圧を高くしたくなるのは、高い周波数の振動があると路面情報の多さから速いのだと錯覚してしまうのと、低圧で増大するリム打ちパンクのリスクが気になるからではないでしょうか。パンクに強いチューブレスなら、無理なく空気圧を下げることができるので「大事をとってチョイ高め」から「大損するよりチョイ低め」を攻めることができます。チューブレスのメリットは「低圧にできること」というのを聞いてピンとこなかった人も、これなら納得できると思います。
路面の荒れ方によっては低圧ほど速い=分岐点がない状態もあり得るので、石畳の悪路で有名なパリ〜ルーベというレースにおける最適空気圧は「パンクしないギリギリの低圧」と言われています。かなり極端な例ではありますが。
走りのロスを少なくするために空気圧を低めにすると、嬉しいオマケがついてきます。それは「路面からの突き上げを和らげてくれる 」「振動を吸収して疲労を抑えてくれる」など、乗り心地に関するメリットです。「乗り心地が良い」と聞くと、ゆるポタ的なのんびりイメージが強いかもしれませんが、競技者にとっても実は重要な性能なんです。どんなにストイックに鍛え上げられた超人的な肉体でも、痛い、だるい、しんどい状態よりは快適な方が良いパフォーマンスを発揮できるというもの。チューブレスなら、空気圧を下げることで積極的に快適性を追求することもできるので、のんびり楽しみたい方には、さらにお勧めです(走り方に合ったタイヤサイズを選ぶことが大前提です。タイヤサイズについては、また別の機会に)。
ゴムが路面をとらえる力は、コンパウンドの性質によるところが大きいですが、タイヤがしなやかに路面に追従し、跳ねずにグリップを維持し続ける、という点ではチューブレスならではのメリットがあります。チューブがないことでタイヤが変形する際の抵抗となる要素が少なく、低圧で使えることがしなやかさにとって、さらなるアドバンテージとなります。パンクを気にせず、適正空気圧を追求できるので、路面の凹凸にタイヤが弾かれることも少なくなるはずです。
ここまで聞くと、チューブレスレディ一択のように感じられるかも知れませんが、デメリットが全く無いわけではありません。チューブレス化することでメリットがデメリットを大きく上回るケースは多いはずです。ただ、以下に当てはまるような方は、そんなに急がなくても良いかもしれません。恩恵よりも手間や煩わしさが増えてしまっては元も子もないですから。
耐パンク性の高いタイヤで空気圧を適正に管理し、危険察知と回避能力を磨き、段差に当てない体重移動のスキルがあれば、チューブレス以外でも困ることはないでしょう。最後にパンクしたのいつだっけ?という方は、意識せずとも必要なことができているということだと思います。
クリンチャーでもリム打ちさせない自信があれば、結構、低圧で走れます。薄くて軽量なチューブとしなやかなタイヤの組み合わせなら、チューブレス同等の転がり抵抗も実現できます。
チューブラーなら乗り心地には定評があるし、リム打ちもしにくく、何よりリムが軽量です。
自転車への取り組み方には個人差があります。乗る距離は問題になりませんが、乗る頻度が低い方はクリンチャーが一番かもしれません。チューブレスレディは、シーラントが入っていることがメリットの一つですが、分離や乾燥によって効果がなくなってしまうので、2〜3ヶ月に一度は状態をチェックし、補充や入れ替えをする必要があります。月に1回ほどしか乗らないならば乗る回数とメンテナンスをする回数のバランスが悪く感じてしまうかもしれません。
毎週乗ってます!という方も要注意です。短い距離でも毎日乗っていれば、タイヤ内部でシーラントが適度に攪拌され、絶えず気密性も補修されますが、1週間動かさずにいるとシーラントは1箇所に溜まってしまいます。特にタイヤ装着直後は、シーラントが隅々まで行き渡っていないこともあり空気の抜けが早い場合があるので、気がつくとビードからシーラントがにじみ出てる、なんてことも。密閉されていないとシーラントの水分が失われがちなので、装着後しばらくは、まめに空気を補充し、1日1回は車輪を回転させてシーラントを攪拌すると良いでしょう(一旦安定してしまえば、その後は乗る都度の空気圧チェックだけで十分です)。
流動的で不確定要素の多い液体で気密性を確保する仕組みなので、タイヤの個体差によって空気の抜け方に差が出ることは珍しくありません。空気が漏れ出す場所が特定できる場合には対処が必要ですが、どこからともなく抜けていくという状態は極めて普通です。前後のタイヤで空気が抜けるスピードが違うことや、以前使っていたタイヤと新調したタイヤで差が出ることもありますが、そのたびに「製品不良なんじゃないか」と気になってしまう性格なら、あまり向いていないかもしれません。
乗車前に空気圧をチェックし、乗車後まで必要十分な空気圧を保てていれば、乗車中のメリットと比べて翌日の空気圧の差なんて問題にならない!というくらいの合理主義的な考え方が必要です。とは言え、数時間で大きな差が出てしまうのは不都合なので、目安としては空気を入れてから12〜24時間後の空気圧を測定して、ご自身のライドにかける時間内にどのくらいの差が出るのかを把握しておくと安心できます。
ここまで来ても、まだ自分の知っているチューブレスのメリットが出てこないという方は、もう少し読み進めてみてください。チューブレスに関連するちょっとした疑問にもお答えしていきます。
チューブが無いから軽量化にも有効なのでは、と思われがちですが、実はそうでもありません。同銘柄、同サイズのタイヤで、クリンチャー仕様とチューブレス仕様がある場合、ビードが補強されていることもあり、通常はチューブレスの方がタイヤ自体が重たくなります。シーラントも30〜60ccほど必要なので、軽さだけならクリンチャータイヤ+軽量チューブの方が有利だと言えます(持ち上げる軽さと、走りの軽さや速さは直結しないこともあるので、他のメリットも併せて考える必要があります)。
チューブレスをチューブ不要のクリンチャーと捉えれば「いざとなったらチューブを入れて使える」というのは、間違いではありません。むしろメリットでもあります。しかし、タイヤとホイールの相性によっては、タイヤの着脱が極めて難しく、現実的な対策とは言えない場合もあります。シーラントでビチャビチャのタイヤにチューブを入れる作業が単純に嫌だと思う方も多いでしょう。
小さな穴ならシーラントが塞いでくれますし、大きな穴にはプラグ修理が効果的です。チューブを入れようと考えるのは穴が大きすぎる場合ですが、パークツールのタイヤブートなどで裏から穴周りを補強しないと、ヘルニアのように穴からチューブが出てきてすぐにパンクしてしまいます。チューブを持つならタイヤブートもご一緒に!
できません!ビードのつくりやリムとのはまり具合が全然違います!タイヤが簡単に外れて危険なので絶対にやってはいけません。
チューブレスリム(ホイール )+クリンチャータイヤ+チューブの組み合わせは使えます。パンクした時に、スポーク穴からリム内に空気が入り込むと、内圧によってリムが破損する恐れがあるため、チューブレス用のリムテープをお使いください。
近年、リムの縁にビードフック(釣り針でいう"かえし"のような構造)が無いホイールが出てきています(FFWDではグラベル用のDRIFTがそうです)。構造的にシンプルで強度が出しやすく、軽量化に有効な上、低価格に抑えたい商品には製造のしやすさがメリットになります。このフックレスリムはチューブレス専用なので、クリンチャータイヤは使えませんが、チューブレスタイヤならチューブを入れて使えます(適合するタイヤのサイズや銘柄まで指定されているホイールもあるほど、規格として一般化されていないので、各ホイールメーカーの指示に従ってください)。
シーラントが少なくなっていたり、乾いてダマになっていたりすると、穴を塞ぐ効果は得られません。また穴が大きければ、シーラントは生きていても勢いよく噴き出して、穴が塞がらない!ということが十分に起こり得ます。
ただ、よくありがちなミスとして、空気が漏れ出す穴をジーっと見てしまうことが挙げられます。シーラントは液体なので、停車中は車輪の下側に集まります。穴が見える位置にあるということは、そこにはシーラントがないということ。冷静になって、車輪を回したり、穴を指で押さえて空気が抜ける速度を落としながらシーラントがある方へ動かせば、ちゃんと塞がってくれる確率が上がります。
そういう組み合わせも確かにあります。無理にタイヤレバーを使うと、リムまで傷めてしまいます。はまったとしても、今度は外せなくなります。正しい技術を身につけた上で、手ではめられるくらいのタイヤを選びましょう。石鹸水などをビードにつけると装着が楽になります。また、FFWDでは空気を入れる前にシーラントを入れてタイヤ内に馴染ませるという手順を推奨しています。シーラントが気密性を保ちつつ、潤滑の役目も果たしてくれるからです。
リムテープを二重巻きにして、ビードとの隙間を少なくする方法があります。あまりにもゆるい場合(手で押して簡単にビードが上がる、上げたビードが勝手に落ちる)は、相性が悪いのかもしれません。気密性を保つことができなかったり、タイヤが外れやすかったりして、事故につながる恐れもあります。
《チューブレスのメリットについて、プロ選手の意見が知りたい方におすすめ》
→現役プロ選手に聞く《前編》:タイヤ
《チューブレス用リムテープの貼り方についてはこちら》
→https://ffwdwheels.jp/blogs/technology/learn-how-to-apply-tubeless-rim-tape-the-hard-way
FFWDでは、ホイールの性能を明確にし、商品選びを容易にするために、独自のSynergySix(シナジーシックス)という評価システムを用いています。
一見すると、どこにでもありそうなレーダーチャートですが、いたずらに製品を良く見せるためのマーケティングツールではありません。お客様一人ひとりが、FFWDラインナップの中から自分にピッタリのホイールを見つけられるよう、モデルごとの違いを明確にし、特徴を分かりやすい差で表現しています。
チャートの情報を正しく理解するために、読み方と各指標が持つ意味について詳しく解説していきます。
]]>一見すると、どこにでもありそうなレーダーチャートですが、いたずらに製品を良く見せるためのマーケティングツールではありません。お客様一人ひとりが、FFWDラインナップの中から自分にピッタリのホイールを見つけられるよう、モデルごとの違いを明確にし、特徴を分かりやすい差で表現しています。
チャートの情報を正しく理解するために、読み方と各指標が持つ意味について詳しく解説していきます。
一般的なレーダーチャートでは、各項目のスコアを結んでできる多角形の面積が大きく、形が正多角形に近いほど優れていることを示します。ところが、シナジーシックスは必ずしもそうではありません。同じホイールでも、良し悪しの基準は使う人や環境によって異なるからです。また、シナジーシックスでは全ての項目において満点というホイールは存在しません。評価するそれぞれの指標が互いに相反したり、補完しあったりする関係にあるからです。
シナジーシックスを読む上で大切なのは「自分にとって重要な指標はどれなのか?」を知ること。一つずつ見ていきましょう。
剛性とは「(力を抜けば元に戻る範囲で)どれだけ変形しにくいか」を表す指標で、簡単にいえば「かたさ」のことです。シナジーシックスにおける剛性は、車輪の横剛性を測定したものをベースにスコア化しています。剛性が高いホイールは、よれにくいのでパワーロスが少なく、ハンドリングも良くなります。
ホイールの剛性を決めるのは、リム素材、リム形状、スポーク長、スポークの種類、ハブのフランジ幅、フランジ径、左右ベアリング間の距離、軸の太さなど多岐に渡ります。そのため、剛性を上げようとすると、他の指標にも影響を及ぼし始めます。
リムハイトを高くする場合を例にとると、リム自体の剛性は上がりますが、軽量性は下がります。リム内径が小さくなる分スポークは短くなるので、剛性は上がり、軽量性もわずかですが上がります。エアロ性能が上がる一方、汎用性と敏捷性は下がってしまいます。
<剛性について詳しく読みたい方にはこちらの記事がおすすめ>
→「かたいホイールは脚にくる?!」
エアロ性能とは 「空気抵抗の低さ」を表す指標で、今やホイールだけでなく、自転車本体、ヘルメット、ウェアなどに至るまで、エアロ抜きには語れないほど重要視されています。それは無風の時ですら、平坦路で出している力の約8割が空気抵抗に打ち勝つためだけに使われている、という事実があるからです。とりわけホイールは自転車の一番先端に位置し、真っ先に風を受けることから、エアロ性能の効果が大きく現れます。
空気抵抗を抑えれば、同じパワーでもより速く走ることができるため、レースには欠かせない性能の一つですが、同じスピードならより楽に走れることも意味するため、ロングライドにゆとりが欲しい人にも注目して欲しい性能です。
エアロ性能を追求すると軽量性と敏捷性のスコアは下がっていきます。例えばRYOT 55では、瞬発的な加速性よりもスピードの維持や体力の温存に長けていることが分かります。汎用性のスコアも加えて総合的に見ると、ハイスピードで巡航する平坦路、一定出力を出し続けるロングライドやトライアスロンでは抜群の性能を誇る一方、得意分野はやや絞られると読み取れます。
<エアロに関して詳しく読みたい方にはこちらの記事がおすすめ>
→「本物のエアロ効果とは?」
耐久性は「どれだけ丈夫で長持ちするか」を表す指標です。ホイールの耐久性を決める要因は多岐に渡りますが、シナジーシックスでは特にハブの耐久性を基準に評価し、その他に際立つ特徴がある場合はさらにプラスで加味します。ベースとしては、ベアリング素材やラチェット機構の違いから、FFWDハブ→DT350→DT240→DT180の順に1段回ずつスコアが上がります。
実際の耐久性を測定する量的な指標ではないので、スコアが半分でも耐久性が半分ということではありません。
ハブの違いは、軽量性と価格には少なからず影響します。もともと「丈夫で長持ち」には定評あるFFWDなので、商品選びの基準としては軽量性や価格とのバランスを考慮してください。
<耐久性に関して詳しく読みたい方にはこちらの記事がおすすめ>
→「『丈夫で長持ち』という価値」
びんしょう性なんて、体力テストでやった反復横跳び以来、使った記憶がないような言葉ですが、自転車向きの言葉に置き換えると「ハンドリングとレスポンス」になるでしょうか。進路を変更するためにバイクを傾けたり、加速のために踏み込む時に「どれだけ素早く入力に反応するか」を表す指標です。キビキビとした走りを楽しみたいライダーには重視してほしい性能です。
敏捷性を決めるのは、主に剛性と軽量性です。特にホイール外周部の軽さが重要で、リムハイトは低いほうが有利になるため、エアロ性能とはトレードオフ関係(一方を立てれば他方が立たずの関係)になりがちです。また、リム重量の差が剛性の差以上に大きく影響を及ぼすため、剛性がアップしていてもエアロ性能の向上が見られる場合には、敏捷性は低く評価される傾向にあります。
軽量性は文字通り「ホイールの軽さ」を示す指標です。恩恵を体感しやすい性能でもあるため、ホイール選びでは一番気になるポイントですが、他の性能を伸ばすときには必ずと言って良いほど影響を受けるので、バランスが重要です。
登り坂では重力に逆らって走るので、持った時の軽量性がそのまま走った時の軽さにつながります。また、常に失速させようとする力に対抗しているため、一定の速度で登っている時でも、平坦路での加速と同じような状況になり、軽量性とともに敏捷性が高いホイールが有利となります。速度域が低くなるほど、エアロ性能の恩恵は小さくなるので、激坂に挑むならロープロファイルの軽量ホイールがベストということになります。
一方、重さが有利に働く場面もあります。リム重量のあるホイールは、一旦スピードに乗ってしまえば多少のアップダウンがあっても勢いを失いにくいため、優れた巡航性能を備えています。ゼロ発進での素早い加速はあまり得意ではありませんが、高い速度域からの再加速では、力任せに踏んでもグングンと勢いが増していくのを感じられるでしょう。
汎用性は「様々な状況や用途に合わせて柔軟に対応できる性能」を表す指標で、オールラウンド性と言い換えても差し支えありません。自己記録やライバルに対してアドバンテージを持つために、本来は挑むコースや得手不得手に合わせてホイールを使い分けるのがセオリーです。でも「厳しい峠越えと長い平坦、どちらも重要」となると、コースの途中で乗り換えるわけにもいかないため、オールラウンド性に優れたホイールがトータルでは有利、ということもしばしば。また、ホビーライダーにとって、何セットも所有するのはハードルが高いため、1セットで何でもこなせるホイールが欲しい!というときにも汎用性が高いホイールがお勧めです。
汎用性は直接測定できる指標ではありません。比較するためのスコアリングなので一定の基準はありますが、主観的な意見も多分に含まれています。例えばチューブレスレディはチューブラーよりも汎用性が高く評価されています。タイヤ交換が比較的容易で、用途に合わせてタイヤを入れ替えやすいことや、パンクリスクが低く、いざという時にも対処しやすいこと、通常のクリンチャー仕様にもでき、タイヤセッティングの選択肢が多いことなど、「使い勝手」も重視しているからです。
科学的なアプローチだけでなく、人間臭い感覚までスコア化してしまうのは、自転車乗りならではの発想。汎用性が高いホイールは、日常の使い勝手も良いと思って間違いないでしょう。
なかなかの情報量になったので消化に時間がかかりそうですが、少しでも皆様のホイール選びの参考になれば幸いです。
余談になりますが、最近のFFWDホイールは、ロゴデザインにもシナジーシックスをモチーフにした六角形が散りばめられているんですよ!
]]>ワイドタイヤはロングライドやグラベルロードだけでなく、レースシーンでも広く求められるようになりました。このトレンドに合わせ、チューブレスレディで、ディスクブレーキ専用、ワイドタイヤに特化した新しいリム形状が必要となります。FFWDでは、25mmまでのタイヤですでに最速の名をほしいままにしていたDARC™テクノロジーのF6Dのエアロ性能を、25〜28mmのワイドタイヤで凌駕するという目標を掲げ、ゼロから開発をスタートさせました。
新たなエアロの法となるLAWテクノロジーと、それを採用したRYOT 55の開発プロセスをご紹介します。
]]>新たなエアロの法となるLAWテクノロジーと、それを採用したRYOT 55の開発プロセスをご紹介します。
新たなリム形状の開発にあたり、まず取り組んだのはCFD解析です。CFDは、リム形状の候補となるCADデータに、コンピュータ上で再現した風を様々な角度からあて、気流の状態や抵抗の大きさを計算によって得る手法です。CFDを用いることで、比較的短時間に、膨大な数のテストを精度高く行うことができ、数ある候補の中からベストな形状を絞り込みやすくなります。最終候補となった5種類のリム形状を同時にシミュレーションし、比較検討を重ねることで、求める性能を全て兼ね備えた1つのリム形状にたどり着きました。
乱流の発生しにくい翼形状という意味を込め、Laminar Airflow Wing(=層流翼)、略してLAW(ロー:法、法則)テクノロジーと名付けました。
CFD解析の結果をもとにプロトタイプを制作し、次は風洞で実寸大の形状比較テストを行います。新しいリムは、F6Dで60mmあったリム高が55mmに抑えられ、ワイドタイヤに合わせて内幅、外幅ともに大きくなり、特徴的だったDARC™テクノロジーリム形状から離れて、タイヤとリムの境目がスムーズになる形を採用しました。
風洞実験の結果は計算通り!現実世界でライダーが直面する風向きのうち、最頻出の0〜10°の範囲で、前作F6Dを大幅に上回りました。平均3.6ワット、最大なんと5ワットも空気抵抗を軽減しています!
自社製品であるF6Dとの比較だけでは飽き足らず、競合他社製品との比較も決行しました。ライダーが最も長い時間にわたって受け続ける0〜10°の風に対し、Zipp、Roval、Fulcrumの同等モデルと比較して、同じ時速48.6km/hなら平均1.5〜2.7Wもエネルギーを節約できることがわかりました。
つまり、同じ速さならより楽に、同じエネルギーならさらに速く走ることができ、どんな状況でもライバルに差をつけられます。
それだけではありません。異なる速度域での効果を検証するため、風洞実験は機材の条件を変えずに3つの風速で行われました。上のグラフは48.6km/hという最も高い速度域での結果を表していますが、より遅い38.5km/hにおいては、さらに利点が大きくなることも分かっています(単位時間あたりのアドバンテージは速いほうが大きくなりますが、同じ距離を走るなら、より時間のかかる低速域のほうが小さなアドバンテージを多く重ねることができ、結果的にメリットが大きくなります)。
つまり、LAWテクノロジーのエアロ効果は、プロ選手のちぎり合いだけでなく、仲間同士で楽しく走る場面においても恩恵をもたらすということです。
エアロ効果を左右するリム形状が定まったら、今度はカーボンレイアップ(カーボンの積層計画)の策定に入ります。カーボンは、繊維そのものが持つ特性も重要ですが、その繊維をどのようにシートに加工するか、それぞれのシートをどのように重ねていくかで、最終製品の性能が大きく変わってしまいます。つまり、素材をどう料理するかがエンジニアの腕の見せ所というわけです。
いくつものサンプルをテストした結果、必要な強度と重量のバランスに優れ、見た目にも美しいカーボンレイアップにたどり着きました。
リムが完成したところで、タイヤの装着テストを行います。様々なメーカー、モデル、サイズを実際に取り付け、チューブレス化の手順も確認し、適合することを確認しました。フックドリムのおかげでほとんどのタイヤブランドに対応でき、インナーチューブを併用する従来式のクリンチャータイヤも、もちろん使用可能です。
21mmに広がったリム内幅のおかげで、テストしたSchwalbe Pro One 25mmタイヤは、有効幅28.2mmを実現。重量を増やさずにワイドタイヤの恩恵を受けることができるほか、最大42mmまでのタイヤサイズに対応するため、対応できるフィールドやライドスタイルがグンと広がります。
いよいよホイールを形にして実走テストです。 ここで採用するスポークの最終決定も行います。前輪には細くて軽量なエアロスポークであるDT AEROLITE™を、後輪には同じくエアロスポークで一回り太いDT AERO COMP™を採用しました。エアロコンプは重量面では若干不利になるものの、ホイールの横剛性アップに大きく貢献してくれることが、ベンチテストからも明らかだったからです。
究極の最終テストは、FFWDのアンバサダーを務め、ウルトラサイクリストの異名をもつジャック・トンプソンによる「1週間の走行距離」の世界記録挑戦です。新しいRYOT 55は、それまでの記録を大幅に更新する、3,502kmの世界記録樹立を支えました!
]]>FFWDの本社があるオランダは「風車と一面に咲くチューリップ」のイメージが強いと思いますが、世界的には平らな地形と風の強さと雨の多さで知られています。そう聞くとあまり魅力的な感じがしませんが、実は、カーボンホイールを過酷にテストするには最高の環境なのです。
空気抵抗を軽減するリムの設計は、膨大な基礎研究と、様々なリム形状のコンピューター解析と、プロトタイプの風洞実験を重ねて最適解を導き出しますが、実走環境においてライダーが直面する風の状況を知らなければ、どの答えが正しいのか判断がつきません。
]]>FFWDの本社があるオランダは「風車と一面に咲くチューリップ」のイメージが強いと思いますが、世界的には平らな地形と風の強さと雨の多さで知られています。そう聞くとあまり魅力的な感じがしませんが、実は、カーボンホイールを過酷にテストするには最高の環境なのです。
FFWDのラインナップが誇る強度、耐久性、パフォーマンスは様々な要素が折り重なって実現します。その中でも、まずはじめに追求するのがエアロダイナミクスとリムデザインです。FFWDのエンジニアたちは、ライダーが実際に走っている時に経験する風の状況を理解し、空力やホイール全般のパフォーマンス目標を設定します。
空気抵抗を軽減するリムの設計は、膨大な基礎研究と、様々なリム形状のコンピューター解析と、プロトタイプの風洞実験を重ねて最適解を導き出します。でも、実走環境においてライダーが直面する風の状況を知らなければ、どの答えが正しいのか判断がつきません。FFWDでは、いち早くこの分野の研究に着手し、導き出された仮説に基づいてDARC™テクノロジー*リムを生み出しました。その仮説とは、「実際にライダーが経験するヨー角**は、多くの競合メーカーが風洞実験室でしのぎを削る10〜20°のレンジより下に集中しやすい」というものです。後年、DARC™テクノロジーの根拠となった仮説を支持する研究***も多く見られるようになりました。
乗車中、ヨー角0〜10°の風を受けている時間は、乗車時間全体の70%以上にのぼります…どんなコースでも。例えば、海岸線に吹き付ける横風で悪名高いハワイ州コナのIronMan™ コースですら、バイクパートの72.1%を10°未満のヨー角で過ごしているというデータが、前述のCatalyst論文に紹介されました。
他にも、いくつかのバイクメーカーやホイールメーカーが同様のデータ収集を行い、一貫して同じ傾向のデータを得ています。ただ、各社が導く結論には差があります。FFWDは、乗車時間の7割以上を有利に走れることこそが、勝利の方程式だと捉え、0〜10°のヨー角を重視しています。一方、時折訪れる本当にきつい場面で有利になることを目指すメーカーもあり、ヨー角15°付近は特に、開発とマーケティングの激戦区となっています。
エアロ性能に関して「〇〇に比べXX%速い」のような表記や、競合ホイールを比較する折れ線グラフを目にしたら、ちょっと深読みしてみてください。
]]>「道具は使ってなんぼ」なんて言ったりしますが、自転車乗りにとってはホイールも道具の一つです。日常的に使う道具なら、走行性能や品質はもとより、耐久性やメンテナンス性も重要な性能となります。
ホイールのスペックを比較するとき、真っ先に見るのが「重量」というあなた! スペック表には現れにくい「丈夫で長持ち」という性能についても目を向けてみましょう。
]]>ホイールのスペックを比較するとき、真っ先に見るのが「重量」というあなた! スペック表には現れにくい「丈夫で長持ち」という性能についても目を向けてみましょう。
ホイールの耐久性を左右する要因について構成部品別に見ていきましょう。
車輪の外周部に位置して、走りの性格を大きく左右する最重要部品がリム。加速や巡航速度の維持などに関わる重量や、空気抵抗を決めるリム高や断面形状など、気にすべき性能がギュッと詰まっているのがこの部分です。
「丈夫で長持ち」という部分にフォーカスすると、リム剛性とリム強度が気になります。剛性は荷重に対するたわみにくさを表しており、剛性が高い=固いという意味になります。壊れにくさを表す強度と混同されやすいですが、強度が「どこまで荷重をかけると元に戻らなくなるか」や「破断するか」を表しているのに対し、剛性は「荷重を抜けば元に戻る範囲で、どれだけ変形しにくいか」を表しています。
リムが変形しにくくなると、車輪にかかる荷重を広範囲に分散させることができます。リムが広い範囲に応力を分散させるということは、1本1本のスポークにかかる荷重も小さくなるということで、リム自体の耐久性だけではなく、スポークやニップル、リムやハブのスポーク接合部への負担も小さくなり、ホイール全体としても耐久性を向上させます。
カーボンレイアップ(カーボンシートの積層計画)も重要です。どんな性質の繊維を選び、どのように積層するかで、同じように見えるリムも大きく性能が変わってしまうからです。FFWDのロード用ホイールは、全てライトなグラベルライドにも対応する強度で設計しています(シクロクロスやビーチレースが盛んで、体格的にも大柄なオランダ人の考える“ライト”は、日本人の感覚からすればかなりガチです)。グラベル専用のDRIFTなら、荷物を積んだ激しいライディングにもド安心ということになります。さらに、FFWDではリムのスポーク穴の周りだけを狙って補強を施すことで、リム全体の重量増を抑えながら、強度と耐久性を確保しています。
車輪の中心部で回転性能を担い、ホイールと車体とを繋ぐ重要部品です。リムに向かって放射状に伸びるスポークの起点にもなっていて、小学生の頃に習った「ハブ空港」のハブはまさにここから来ています。マングースのことは一旦、忘れてください。
「丈夫で長持ち」という文脈では、まずベアリングに目が行きますよね。車軸にかかる荷重を受け止め、回転の滑らかさを司るのがベアリングです。近年のハイエンドホイールでは、それらの性能に優れたセラミックベアリングを採用するメーカーが多くなっており、FFWDでもRAWというモデルにはSINCセラミックベアリングを使用しています。セラミックには硬く、腐食に強いという特徴があり、滑らかな回転性能と耐久性のために利点が多いのは確かです。
ただ、ベアリングの回転性能を引き出し、その性能を長持ちさせるには、単純にセラミックにすれば良いということでもありません。手に持って空転させたときに、永遠に回り続けそうなホイールは、確かに購買意欲をかき立てます。でも実際のホイールは、自転車に装着して使う道具であり、手に持っている状態では再現できない負荷が発生しています。
FFWDが多くのモデルで採用するDT SWISSのハブは、玉あたり(ベアリングの滑らかさ調整)の外部調整機構がない代わりに、ベアリングに最適なプリロード(予荷)が工場出荷段階でかけられています。プリロードによって、軸が左右のベアリングの間で突っ張っているような力が働いているため、車輪を外した状態では回転がやや重く感じられますが、車体に装着され、固定具によって軸が圧縮方向に荷重されると、ベアリングにかかっていたプリロードが解放されて、ベストな回転性能になるようにできています。
次に注目して欲しいのは、フリー機構です。チェーンを介して後輪に力を伝え、足を止めればジーっとなるアレのことです。一般的な3ポールのシステム(3は“さん”ではなく、スリーと読みましょう。)では、どんなに細かい歯数設定でも動力を伝える“爪”は3点でしか接しておらず、大きなトルクを伝えるにはやや心許ないイメージです。FFWDホイールに採用されるラチェットシステムはその点、全ての歯が同時に噛み合う設計なので、力の伝達効率に優れ、歯にかかる応力も分散されるため、耐久性向上に一役買っています。
ハブとリムの間にある金属線がスポークです。ホイールは、このスポークに張力をかけることによって構造体としての強度を保っています。FFWDでは高精度、ハイクオリティーで定評のあるDT SwissまたはSapim製スポークを採用し、モデルによってエアロ効果のある扁平スポークと、強度と軽さのバランスに優れたバテッドスポーク(中央部を細く加工したスポーク)を使い分けていますが、全てのモデルにおいて、力の伝達効率に優れたストレートプルスポークを採用しています(くび部分に曲げを施した一般的なJベンドスポークに対し、ストレートプルは文字どおりハブとリムを一定の角度で一直線につなぎます)。
スポークは太いほど引っ張り強度が増しますが、重たくなってしまいます。また、端から端まで同じ太さのプレーンスポークは弾力性に乏しく、リムやハブとの接合部に応力が集中しやすいため、金属疲労が起きやすくなってしまいます。中間部分を細く鍛造したバテッドスポークは、負荷のかかる両端を太く残したまま軽量化できるだけでなく、細い部分が適度な弾力性を発揮するため、両端にかかる負荷を軽減することができ、耐久性を高める効果もあります(エアロスポークはバテッドスポークにさらに一手間加えて扁平にしているので、同様の効果が得られます)。
軽量化を最優先するなら、全てのスポークに最軽量のDT AEROLITE®を採用するのがベストですが、細いことによる強度不足や、弾力性に富むことが仇となって剛性不足となるリスクがあるため、バランスが重要になります。FFWDは、前輪には軽量なAEROLITE®を採用する一方、駆動力を担い、体重の多くを支える後輪にはあえてDT AERO COMP®を採用することで、このバランスを図っています。(Sapimの場合はCX-RAYとCX-SPRINTを組み合わせて使用しています。)
スポークの重さなんて大したことない、と思う方もいらっしゃるでしょう。中間的な44mmリムハイトの場合、エアロライトとエアロコンプの重量差は、後輪1本分の24本で約30gです。カタログの読み方が変わってしまうほどの数値ではないでしょうか?
スポークとリムを繋いで、スポークに張力をかけている部品がニップルです。ホイールの外周部に位置するので、軽量化の恩恵が受けやすい部分であるとともに、車輪の回転に伴う移動量が大きいので、リムの内部に隠せば空気抵抗の軽減にも効果が期待できる部分です。
FFWDでは、フラッグシップモデルのRAWにDT Swiss製のPro Lock® Alloy Hidden Nippleという軽量でエアロ効果あるニップルを採用しています。ヒドゥンニップルはスポークテンション調整用の工具をかける面がリム内周部に露出しないため、回転に伴う空気の乱れを最小限に抑えることができます。また、軽量なアルミ製であるため、加速のレスポンスを向上させることができます。
「丈夫で長持ち」という文脈では、まずPro Lock®テクノロジーに注目します。ニップルが緩むと、スポークテンションの低下やバラつきが発生し、振れが出てしまうだけでなく、ホイール自体の耐久性が下がってしまいます。これを防ぐのがDTが特許を持つネジ止め加工=プロロックです。ホイールの耐久性を最大20%も向上させることで知られています。FFWDでは全てのモデルにPro Lock®ニップルを採用し、高い精度を長く維持できるようにしています。
それでも狂いが生じてしまったら…。簡単に修正できればすぐに機能を回復できます。FFWDでは、RAW以外のモデルにはあえて真鍮製のスタンダードなニップルを採用しています*。タイヤやリムテープを外さずに調整ができ、アルミ製に比べて工具をかける面が潰れにくいので、メンテナンス性に優れているからです。前後輪で40gほど重量増にはなりますが、良い道具は手を掛けながらでも長持ちさせたいという想いは、作り手にも使い手にも共通なのではないでしょうか。