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異なるリムハイトを組み合わせるメリット、デメリット

異なるリムハイトを組み合わせるメリット、デメリット

ロードホイールは、前後同ハイトのセットになっていることが一般的です。なのに、あえて前後に違うリムハイトのホイールを組み合わせるのには、何かしらの狙いがあるはず。

この記事では、前後異ハイトの背景にある考え方、メリットやデメリットについて考察します。実際に、異なるリムハイトを組み合わせて使用しているプロ選手にも聞いてみました。

リムハイトが変わると何が変わる?

「前後でリムハイトを揃えるか、差をつけるか」という話の前に、まずはリムハイトの違いがどんな差をもたらすか、簡単に見ていきましょう。

重量

リムハイトは高いほど多くの材料が必要になるため、重量が増えていきます。坂を一定の速度で登るような場面では、軽いほうが必要なエネルギーを小さくすることができます。

加速性能

ホイール外周部の重量は、軽いほど加速レスポンスが良く、重いほど失速しにくくなります。 特に、駆動力を伝える後輪は、踏み込みに対する反応が分かりやすく伝わってきます。

エアロ性能(空気抵抗の低減効果)

リムハイトは高いほど気流が剥離しにくく、空気抵抗を低減できます。特に、脚の動きで気流が乱される後輪に比べ、比較的気流の乱れが少ない状態で当たる前輪はエアロ効果の恩恵を受けやすいと考えられます。

ハンドリング

リムハイトが高くなると、横風に対しては面積が大きくなるため、不安定になる恐れがあります。特に、操舵を司る前輪は、風をうけてステアリング軸にトルクがかかる(ハンドルを取られる)と大きくバランスを崩しやすくなります。

また回転質量が大きくなると、ジャイロ効果も大きくなるため、ホイールの姿勢を変える(バイクを寝かせる)際に抵抗を感じる場合があります。リムハイトを抑えることでハンドリングが軽快に感じられる可能性がある、ということです。

剛性

リムハイトが高いほど、リム自体の剛性が高くなります。加えて、ハブとリムを結ぶスポークの長さが短くなるため、スポーク自体の変形量も抑えられ、ホイール全体としても剛性が上がります。ただ、積極的に高さの異なるリムを組み合わせる理由になるほどの差は感じないかもしれません。

リムハイトの考え方

メーカーによっては、最初から前後で異なるリムハイトを組み合わせていることもありますが、前後同ハイトを基準に考えると、違うリム高を組み合わせる理由や狙いがハッキリしてきます。

組み合わせパターン①前後同ハイト

前後共に同じリムハイトを持つオーソドックスな組み合わせは、リム重量の差がなく、自然なバランスで、極端な挙動のクセもないことから扱いやすい組み合わせとなります。リムハイトなりの特性が素直に出るのが特徴。

  • 低ハイト(例:RYOT 33)=クライミングホイール、または体重が軽い人向けのオールラウンド
  • 中間ハイト(例:RYOT 44など)=軽さとエアロのベストバランス。オールラウンド
  • 高ハイト(例:RYOT 55)=巡航性に優れたエアロホイール
  • さらにディープ(例:RYOT 77)=単独で一定出力を保つことに特化したホイール

組み合わせパターン②前低 / 後高

エアロ性能を求めつつ、横風の悪影響を最小限に抑えたり、テクニカルなコースに合わせた軽快なハンドリングを前輪で確保する、というのがこの組み合わせの主な狙い。

ロングのトライアスロンなら、前RYOT 77 / 後DISC FCC DBが最強エアロセットアップとなりますが、体格や風の強さに応じて前後RYOT 77 → 前55 / 後77 → 前後55の順に横風対策をするのがお勧めです。

組み合わせパターン③前高 / 後低

通称 "増田さんスタイル" 。より気流の乱れが少ない前輪側でエアロ性能を確保し、後輪側に軽いリムを組み合わせて加速性能をプラスするのがこの組み合わせの主な狙い。

インターバル的要素の多い日本のロードレースや、平坦のクリテリウムに向いていると考えられます。ハンドリング面ではクセを感じることがあるので、極端な差をつけるのは万人向けではありません。

右から當原隼人選手、フロントRYOT 44、リアRYOT 33で走る西尾憲人選手、草場啓吾選手、岡本隼選手

現役プロ選手に聞く:前後で違うリムハイト

今回は、このテーマに合わせ、前後で違うリムハイトを組み合わせてレースを走っている愛三工業レーシングチームの岡本隼選手(ハヤト)、草場啓吾選手(ケイゴ)、當原隼人選手(バル)、西尾憲人選手(ケイティ)にお話を聞いてみました。

まずはパターン①の前後同ハイトをメインにしつつ、組み合わせパターン②(フロントにRYOT 33、リアにRYOT 44)も使用したことのある岡本選手と草場選手にお聞きします。

開幕から2連勝を挙げた組み合わせでしたが、その後は前後同ハイトが定着したように見えます。パターン②にした狙いや経緯を教えてください。

(ハヤト)狙いとしては、前輪にはハンドリングの軽快さと重量の軽さ、後輪には確実な "伸び" を期待して前後異なるリムハイトを選択しました。

(ケイゴ)シーズンオフのキャンプ中にテストしていた組み合わせで、実戦でも使ってみた感じです。シーズン序盤で、まだいろいろ試せる時期というのもあったんで良かったんですけど、後のTOJとか全日本を見据えた場合に、勾配がきつくて周回コースで脚に何度も負担が掛かるコースなので、早めに前後RYOT 33に慣れていった方が良いのかな、っていう意味で切り替えました。

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メリット、デメリットはどのように感じましたか?

(ハヤト)実際に使ってみて期待した通りの軽さと "伸び" を体感できました。2日間とも風のキツイレースでしたが、前輪をローハイトにしたことで乗りにくさとか、風に煽られることもなかったです。2日目のクリテリウムでは180°ターンが2箇所ありましたが、立ち上がりの初速を乗せる所では軽く、ダンシングを終えてシッティングで息を整える場面ではしっかりと後輪の "伸び" を感じる事ができました。
これと言って「ここが良くない!」というところはありませんでしたが、RYOT 44を前後に履いたときに比べると、下りから上りに入る場面や、起伏が変化する場所でトルクをかけて踏んだ時の進む感覚、車輪の前後バランスの良さはやはり前後同じハイトの方が良いと感じました。

(ケイゴ)コースにもよるんでしょうけど、前33/後44は自分の中では特に良さを感じない…あまり変わらないというか、その組み合わせなら前後33、もしくは前後44でいった方が良いかな、と。僕の場合は、フレームサイズとの相性でRYOT 33とMサイズの組み合わせが一番良くて、平坦でも33の方がいいのかな、ってちょっと最近は思ったりして…

フロントRYOT 33、リアRYOT 44で走る草場啓吾選手

草場選手はFFWDに乗る前の昨年も、登りのきついレースではアルミのロープロファイルリムを選んでたから、元々、軽めのホイールが好きなのかな?

(ケイゴ)軽いホイールと、多分柔らかい方が好きなんじゃないですかね。自分のリズムに乗せやすいというか。まぁ、前半は少し物足りなさはあるんですけど、結局レースって疲れてきてからの勝負が多いんで、柔らかい分踏みすぎず、セーブできる。逆に軽くて進みすぎちゃったら、前半から行っちゃうじゃないですか…「今日は調子いいな」みたいな感じで。でもそういったレースをしちゃうと後半、脚にくるんです。

なるほどね〜。


剛性と疲労について、詳しくはこちら》

「かたいホイールは脚にくる?!」
https://ffwdwheels.jp/blogs/technology/all-about-wheel-stiffness


では、今度は組み合わせパターン③を多用している當原選手と西尾選手にお聞きします。

お二人がよく使うのがフロントにRYOT 44、リアにRYOT 33という組み合わせ。どうしてこの組み合わせになったのか、どんな効果を感じているか、お聞かせください。

(ケイティ)前44/後33を試したいなって思ったのは、空力が良いってことが一個あって、以前のチームで使っていたホイールでも、前輪のリムハイトを高くする組み合わせと相性がよかったので、RYOTでも試してみた感じです。バイクもホイールも変わったんで、それがどのくらい今までの感触があるのかな、っていうのが気になりました。
前後とも33だと自分にとってはあまり進まない印象で、TOJ(富士山ステージ)と全日本以外では使ってないです。前後とも44にすると、登りでは後ろに引っ張られるような感覚というか、ちょっと後輪が重い感触があります。前44/後33だとそういう違和感がなくて、相性が良いのかな、っていうことでずっと使い続けている感じです。

(バル)自分は踏み出しが軽い方が好きなので、RYOT 33をベースに、アップダウンがそんなにきつくない平坦基調のコースではフロントに44を入れて、オールラウンド的なコースだったら前後33を選んでいる感じです。

フロントRYOT 44、リアRYOT 33で走る西尾憲人選手

草場選手も最近、パターン③のフロントにRYOT 44、リアにRYOT 33という組み合わせを見かけましたが、どうでしたか?

(ケイゴ)プロのレースではなかったので、お試しでやってみました。登りと下りしかないコースだったんで、フロントがやっぱり重たい気がして。ダンシングの振りとかで普段よりもそれを感じて、どうしても後半にダメージが残りました。
本当にド平坦だったらいいんですけど、ちょっとでも登りがあるなら、前後33が一番好きかなっていうのはありますね。

(ハヤト)自分も、実際にチームメイトが選択しているのも見ていたので試した事があります。

おっ?どうでしたか?

(ハヤト)巡航性がよくて、上りも軽快にこなせて、高い出力を使わない領域ではかなり良い印象を受けました。
スプリントした時の "かかり" や "伸び" は、前後RYOT44や、前33/後44の時の方が良いように感じました。あと、ハンドリングなどの扱いやすさを考えたときには、少しピーキーで尖っている感じですね。
アップダウンのコースで逃げを決めに行く時などは良いと思います。
もちろん使用するフレームによって印象は変わってくると思いますが、現在自分が使っているフレームにはRYOT44を前後につけた時が一番しっくりきているので、パワーで勝負できる上りなら基本的にRYOT44を使用しています。

風の影響とか、ハンドリングの違和感とかは、他のみんなも感じる?

(バル)全然、気にならないです。前に44を入れても、レース中も意識しない、忘れてるくらいの感じで違和感はないです。

まあ、感じ方には個人差があるよねw

フロントRYOT 44、リアRYOT 33で走る當原隼人選手

では、前後33とか44と比べた時に、異なるリムハイトの組み合わせはどっちに近い?

(ケイゴ)前44/後33は50:50な感じですね。リアで33の軽さも備えつつ、トルクもかけやすく、しなる感じを持ちつつも、フロントの44がしっかり剛性を持ってるんで硬くて推進力に変えてくれるっていうところで。なので、そういう組み合わせはありかなって思ってるんですけど、前33/後44は、変化が小さい気がします。

(ケイティ)草場選手と同意見です。前44/後33の方が良くて、前33/後44はそんなにメリットを感じていないです。
僕がよく使っている前44/後33は、どっちかっていうと前後44に近いイメージで、なんとなく、ちょっと登りがある時には後33にしようかな、っていうくらいの感じです。

(バル)前後33寄りに、ちょっとエアロが足されたっていう感じです。若干、重くはなってるんでしょうけど、やっぱりRYOT 33に空力が欲しい、エアロが欲しいっていう時に前44にするんで。逆はやったことがないんで分からないですけど、前44/後33は良いとこ取りな感じがしますね。33の "かかり" に44の "伸び" っていうのがピッタリです。

最近、本国のオランダでは、前44/後55とか、前55/後77っていう組み合わせのセット販売が始まっていて、元々、バラ売りの設定もあるから、要望があれば日本でも自由に組み合わせることもできるんだけど、「こういう人にはこの組み合わせがお勧め」とかってある?

(ハヤト)RYOT 33はラインナップの中で一番軽くレスポンスがよい印象です。かと言って変な癖もなくフレームの特性をそのまま出し切ってくれる印象です。
ヒルクライムを専門とする人とか、車輪によってフレームの特性を変えたくない人にオススメです。
RYOT 44は、33よりは重さを感じますが、実際踏んだ時には"使える重さ"を感じます。アップダウンの連続する区間や、パワーで勝負できる上りでは重さを推進力に変えられる特性を持っています。スプリント開始時の初速ではRYOT 33に引けをとりますが、 "かかり" 始めて5〜7秒後の一番大事な所で "伸び" を感じる時間が長く与えられる印象です。
前33/後44 にすることで少しRYOT 33の特性に近く、レスポンスよく反応が返ってる乗り味になりますが、RYOT 44が本来持っている "使える重さ" や "伸び" は少し薄れてしまいます。コーナーが多いクリテリウムや、傾斜のキツイ上りがあるコースや、ゴール前200〜300メーターが極端に低速になる場合、あるいは上りスプリントになる場合に使用したい組み合わせです。

素晴らしい分析力!さすがです!

(ケイゴ)でも、やっぱ使うのがいいし、RYOT 33と44を1セットずつ買うのがいいですよね。

そりゃ〜、うちにとってはそれが一番嬉しいw
まあ、確かにコースによって使い分けできるのが理想的だよね。

(ケイゴ)それだったらRYOT 33のセットを買って、44のフロントだけ追加で買いますとかで3本になる、っていう感じになるんじゃないですかね。
僕だったらそうしたい。最初から前後異ハイトで揃えるってなったら、僕もなかなかちょっと……だったら同ハイトのセットで買いたいかな、って感じですね。だから一本売りは良いですね。あとから前輪だけを足すとか、後輪だけを足すとかなら一般のお客さん的にも良いんじゃないかな、と思います。

貴重なご意見、ありがとうございます!
みなさん、ご協力ありがとうございました。

本文中の写真(3枚目、4枚目):愛三工業レーシングチーム 提供

ファストフォワード日本公式サイトでは、ホイールの一本売りや、前後異ハイトのセット販売も承ります。お問い合わせフォームよりご依頼ください。


《過去の"プロに聞く"シリーズはこちら》 

現役プロ選手に聞く《前編》:タイヤ
https://ffwdwheels.jp/blogs/hero/ask-the-pros-1

現役プロ選手に聞く《後編》:ホイール
https://ffwdwheels.jp/blogs/hero/ask-the-pros-2

プロチーム監督に聞く:ヒルクライム直前対策
https://ffwdwheels.jp/blogs/hero/ask-the-pros-3

プロチーム監督に聞く:ホイールの選び方
https://ffwdwheels.jp/blogs/hero/ask-the-pros-4

現役プロ選手に聞く:ホイール・タイヤ
https://ffwdwheels.jp/blogs/hero/ask-the-pros-5

《RYOT(ライオット)コレクションページはこちら》
https://ffwdwheels.jp/collections/ryot