かたいホイールは脚にくる?!
ホイールの性能を決定する因子の一つに、剛性という指標があります。簡単に言えば「かたさ」のことですが、同じかたさでもメリットに感じる人と、デメリットに感じる人がいて、何が正解なのか分かりにくいってこと、ありませんか?
この記事では、ホイールの剛性に関する様々な疑問にお答えしたいと思います。
「剛性」とは?
剛性は「曲げたりねじったりする力に対して、どのくらい変形しにくいか」を表しています。 ホイールの剛性は、リムの剛性(どれだけたわみにくいか)と、スポークの本数(何本のスポークで荷重を受け止めるか)で決まります。剛性の高いリムは局部的な荷重を広い範囲に分散することができ、その範囲のスポーク本数が多ければ、一本当たりの変形量を抑えることができるからです。スポークの太さ(=伸びにくさ)や長さ(短い方が伸び量が小さい)も車輪の変形を抑える要因になります。
ひとくちに剛性と言っても、みんなが同じことを指しているとは限りません。ホイールの剛性に関する議論で意見が食い違うことが多いのは、好みの違いもあるかもしれませんが、往々にして、どんな力に対する剛性を議論しているのかを明確にしそびれてしまうからだと思っています。そこで、ホイールにかかる力の向きに応じて、縦剛性、横剛性、ねじり剛性に分けて考えてみることにします。
<縦剛性>
ホイールを立てた状態で、軸に垂直方向の力を加え、軸が地面にどれだけ近付いたかを測定すれば縦剛性がわかります。
縦剛性が高いホイールは、路面からの突き上げをフレームに伝えやすいので、乗り心地を説明する因子になり得ます。ただし、ホイールと路面との間にはタイヤがありますし、ホイールとライダーの間にはフレームやシートポスト、サドルがあるので、ホイールの縦剛性だけで乗り心地が決まるわけではありません。
むしろ「乗り心地の良さをホイールの縦剛性に求めるのは、ベッドの寝心地をベッドフレームに求めるようなものだ」とも言えます。タイヤの太さやしなやかさなら、変更のコストも低く選択肢も豊富ですし、それを活かす空気圧の調整なら納得いくまで何度でもタダ!
個人的には、機材の軽量化やエアロの議論で「体重を落とす方が効果的」とか「体の面積の方が大きいから無意味」という結論の出し方が大嫌いで、ベッドを選ぶならマットレスもフレームもこだわりたいタイプなので、ホイールの乗り心地を吟味するのも悪いことではないと思います。
ただ、縦方向の荷重はスポークの張りを弱める方向に作用するので、ホイールの縦剛性が体重や乗り方に対して低過ぎたり、元のスポークテンションが低すぎると、意外なほど簡単にスポークがたるみます。張りを失ったスポークは、リムとハブを繋ぐヒモ程度の仕事しかしないので、強度や耐久性が著しく低下します。段差などでサスペンションのような沈み込みを感じるホイールは、壊れやすい、壊れかけている、すでに壊れている、のいずれかに該当しているかもしれません。
スポークテンションは強度の決定要因です。適正スポークテンションの範囲では、高くても低くても乗り心地が変わることはありません。スポークテンションを変えることで乗り心地が変わるとしたら、適正範囲を超えた調整になってしまっている可能性があります。ちなみに、スポークテンションメーターの換算表に記載された最小値と最大値の間が適正範囲だと誤解されやすいのですが、あれはその工具の測定可能範囲を示しているだけで、実際の適正範囲はそんなに広くありません。
<横剛性>
ホイールを立てた状態でハブ軸をガチガチに固定し、路面と接する位置でリムを真横に引っ張ったときに生じるリムの位置変化を測定すると、横剛性がわかります(下の図はホイールを寝かせ、重りを垂直にぶら下げていますが、同じことを表しています)。横方向の荷重は、コーナーでバイクを寝かせる時や、ダンシングでバイクを振るときに発生します。

車輪がヨレヨレでは安定しないので、当然、かたい方が有利になります。リム自体の剛性(ワイドリム有利)、スポーク本数(多い方が有利)、スポークの太さ(太い方が有利)、ハブフランジ間の幅(これを底辺にして左右のスポークが作る三角形が幅広だと有利)が横剛性に影響を与えます。
ダンシングするとリムがブレーキシューに擦るとか、ホイールマグネットとスピードセンサーが当たるという症状が出たときに、ホイールの横剛性不足が疑われがちですが、実はフレーム側の問題であるケースがほとんどです。もちろん、ハブにガタがあったり、車輪の固定が甘ければ、こういった症状は出ますが、剛性以前の問題です。下の図でそれぞれの違いがイメージできるでしょうか。
<ねじり剛性>
車輪が回転するとき、ハブの回転とリムの回転は完全に同期しているように見えて、実はごくわずかにズレがあるんです。ハブを固定した状態で、リムに回転方向の荷重を掛けると生じるそのズレを測定すると、ねじり剛性がわかります。
ハブとリムの間にねじれが生じるのは、ペダルを踏み込んで推進力を得ている時と、ディスクブレーキの制動時です。リムブレーキ用のロードホイールでは、前輪にラジアル組(スポークを放射状に配置する組み方)を採用することが多いのに、ディスクブレーキでは見かけないのは、ラジアル組ではねじり剛性が得られないからなんです。後輪や、ディスクブレーキの前輪はタンジェント組(スポークをハブの接線方向に配置する組み方)にすることで、駆動力や制動力を効率的に伝達しています。
ねじり剛性の低さは、ペダルの踏み込みに対するたわみや、車輪の回転が遅れてくるようなタイムラグとして知覚されることがあります。踏み込みに対し、期待するほど車輪の回転がついてこないので「重い」と錯覚してしまうことも。
たわみのおかげで、ギクシャクしたペダリングに対しては寛容で、路面の凹凸などで車輪の回転が一定しないときにも、脚に優しく感じるかもしれません。また、タイムラグをポジティブに捉えれば「踏み込みのピークを過ぎた後にスポークの伸び戻りによる推進力が感じられる」と表現することもできます。
ねじり剛性が高いホイールは、踏み込みに対する反応速度が早く(レスポンスが良い)、変形によるロスが少ないので、踏んだ分だけスピードに乗っていきます。加速性能はホイール外周部の重量に依存する度合いが大きいのですが、回転数の変化に必要な力の大きさを決めるのが重量、その力の伝達効率や伝達スピードを決めるのが剛性、と分けて考えると様々なホイールの特徴を細かく理解することができるのではないでしょうか。
システムの剛性
ここまでは、ホイールの剛性について細かく見てきましたが、今度は少し"引き"で見てみましょう。ちょっと感覚的な話になります。

足の裏で踏み込んだ力が、タイヤの接地面に到達するまでの間には、ペダル、クランクアーム、チェーンリング、フレームのたわみや、ドライブトレイン摩擦などの機械的ロスがあり、やっとホイールが出てきて、最後にタイヤの変形となります。ホイールだけを変えて、フィーリングの比較をすることは可能ですが、システムとしての"剛性感"と、ホイール単品の剛性は、高い相関関係にあるものの、同じではないような気がします。
雑誌の乗り比べインプレなどでは、他の機材を全く同じにして、ホイールの差だけを見るようにしています。でも「機材を揃える=条件を揃える」とならない場合があるのも事実です。例えば、リム幅が違うホイールに、同じタイヤを同じ空気圧でセットしても、タイヤの膨らみ方は同じになりません。
また、どこかに突出した特徴があると、その強烈な印象によって他の小さな差が見えなくなったり、違う見え方をすることってありませんか? 美人だと、性格の悪さまでプラスに感じてしまうとか(個人の感想です)。
英語の慣用句には、"a chain is only as strong as its weakest link"(チェーンの強度は最も弱いコマの強度で決まる)というものがあります。ひとコマだけを強化してもチェーン全体の強度は上がらないことになぞらえて、組織の力を上げるためには優秀な人材を一人追加するより、全体の底上げを図った方が良いことの例えとして用いられます。自転車においても、良いホイールは確実に走りをプラスの方向に進化させますが、最終的な乗り味は、各部のバランスの上に成り立つシステムとしての乗り味です。部分最適=全体最適とはならないこともありますし、必ずしも各部の積み上げにはなりません。インプレやレビューも参考にはなりますが、自分の感覚や機材と一致しないことも多いはずです。
「それじゃホイールなんか選べない!」と、なりそうですが、心配は要りません。「何を選ぶか」も大事ですが、「どう付き合うか」でパフォーマンスも満足度も大きく変えることができるんです。
ホイール剛性との付き合い方
ホイールを変えると、走りがガラッと変わります。プラスの変化ばかりなら嬉しいのですが、今までなかった違和感に遭遇することも珍しくはありません。そんな時は、ヘアスタイルに合わせて洋服の着こなしをちょっと変えるくらいの気持ちで、ホイールの特徴にテクニックやセッティングを合わせていきましょう(サラサラのロングからゴリゴリのパンチパーマみたいな変化には、それなりの対応が必要になります)。
<乗り心地が悪いと感じたら>
- 空気圧を下げる。タイヤの下限空気圧からスタートしてみましょう。高すぎる空気圧は、乗り心地が悪いだけでなく、ロスも大きくなります。
- しなやかなタイヤ、軽量チューブに交換。チューブはコスパの高いアップグレードです。乗り心地向上と同時に、軽量化と転がり抵抗低減が期待できます。
- チューブレス化。最近のチューブレスは、チューブラーに匹敵する乗り心地です。パンクのリスクが低いので、大胆に空気圧を下げることもできます。(チューブレスのメリットについてはコチラ→https://ffwdwheels.jp/blogs/technology/benefits-of-tubeless-tires)
- タイヤサイズを変える。ボリュームアップしてみましょう。ワイドリムには28mmあたりの相性が良いですよ。
<"伸び"がないと感じたら>
- 考え方を変えてみる。踏み込みのピーク後に感じる推進力の"伸び"の正体は、弾性変形としてスポークに蓄えられた力が戻ってきているものだと考えられます。余裕がある時に銀行預金をするのに似ているので、メリットがあるように感じますが、利子もつかないのに手数料が高いところまで同じです。力の一部は、変形の際に熱などに変換されて失われるので、ピーク時に発生した推進力のロス(スポークの変形に使われた分)が後半の"伸び"によって回収されることはありません。
- 踏むペダリングから回すペダリングへ。ねじり剛性の高いホイールは、ペダルの踏み込みに対して、少ないタイムラグで推進力が発生します。その特性を活かすなら、車輪の回転に同調するように、滑らかにトルクをかけるのがベストです。柔らかいホイールなら、車輪の回転を追い越すように踏み込んで、後半で車輪に追い抜かれるようなペダリングでも許容はしてくれますが、シッティングでは回すペダリングの方がいずれにしても有利です。
- ダンシングは、ライダー自身が持っているエネルギーに加えて、位置エネルギーを利用できる可能性があります。高い位置からしっかりとペダルに体重を乗せられる場合は、ホイールのバネ感を存分に活かした走りが気持ち良く感じられるでしょう。剛性の違いは、テンポの違いとして現れます。剛性の高いホイールは反応が早いので、ペダリングのテンポも少し早い方が良く進みます。適切なギア比を選択してください。
<"脚にくる"と感じたら>
表現自体が漠然としていて、同じ"脚にくる"でも100人いれば100通りの解釈がありそうですが、ざっくりと①エネルギーの枯渇、②反力によるダメージに分類してみます。
- ①無駄に大きな力を使ったり、ペース配分を誤ればエネルギーは枯渇します。「乳酸が溜まる」というのも、無酸素領域で糖の利用が高まっている状態なので、同じような結果につながります。短時間で限界性能を試したくなる試乗会ではよく見かけますが、「全力でモガき続けて売り切れる」「脚パンになる」といった状態や「このホイール、速いんだけど疲れるね」といった状態は、無意識のうちに頑張りすぎているのかもしれません。ホイール剛性に関わらず、疲れるものは疲れます…速く走ればなおのこと。ペース配分や、適切な補給が重要です。
- ②地団駄を踏み続ける、壁を蹴り続ける…いかにも脚にきそうです。衝撃を吸収しない対象物に入力すると、入れた分の力が反力として返ってきます。かたいホイールは脚にくる、と感じるなら踏み方を変えてみましょう。"伸び"のところでも書きましたが、車輪の回転速度に見合った出力カーブを描くように、パワーの立ち上がりを滑らかにすると楽になるはずです。ホイール剛性とは関係ありませんが、下死点まで踏み切ってしまうようなペダリングも、同じように反力が原因で脚にきます。クランクが6時の位置でさらに下に踏み込んでも推進力は生まれないので、パワーはあるのに、思ったほどスピードが出ないといった症状の方は、どこでパワーが出ているのかに注目してみると良いでしょう。
ねじり剛性の高さが"脚にくる"理由がもう一つ考えられます。路面の激しい凹凸によって、トラクション(グリップ)が抜けたり、車輪の回転速度にムラができてしまう場合です。滑らかなペダリングを心掛けていても、トラクションが抜けると、クランク側でもスカッと抜けたような状態になり、再びグリップが回復した時にはペダルにドンとかカーンと衝撃が来ます。段差に乗り上げる時には車輪の回転速度が一瞬、遅くなるので、クランクの回転が妨げられて、逆に「ペダルが突き上げてくる」ように感じたりします。スポークの弾力性によってある程度衝撃が吸収されるホイールなら、抜けによるショックやペダルの突き上げ感による疲労が和らぐかもしれません。路面の凹凸が激しい石畳やグラベルなどでは、用途にあったホイール選びが重要になりますが、付き合い方という点では「軽いギアより重いギアの方が抜けの落差や、突き上げ感が少ない」ことを覚えておくと良いでしょう(軽いギア、重いギアそれぞれで同じ距離だけ後退してみると、クランクの逆転量の違いで落差や突き上げ感の差がイメージできると思います)。
疲労によってフォームの乱れや、動作のばらつきが出てくることもあるでしょう。①と②が負のスパイラルとなってライダーを苦しめます。ライド後半に脚が残せないのは、ホイール剛性の問題だけではないかもしれません。
まとめ
ここまで、かなり細かくホイール剛性と、その付き合い方について見てきました。もしかしたら、細かく見すぎたかもしれません。
横剛性に関しては目視できる差が出ることはありますが、縦、ねじりに関しては差があったとしても、その変形量は、かなり小さいことも覚えておくと良いでしょう。
現時点の体力やスキルにぴったり合うホイールを見つけた時の喜びは、とてつもなく大きいですが、体力やスキルは変化するものです。好みだって歳と共に変わりますよね。ぬかるんだ沼の淵を歩くスリルも良いですが、この沼は深いので注意してください!
道具を使いこなすことも、機材スポーツの楽しみの一つです。「何を選ぶか」も重要ですが、「どう付き合うか」にも目を向けてみましょう。
最後になってしまいましたが、何を選ぶかで迷ったら、ファストフォワードにすることもお忘れなく。