メンテナンスの頻度
ホイールの性能を維持し、製品寿命を最大化するためにメンテナンスが必要なことは誰もが理解していることと思います。だからこそ気になるのが、正しいメンテナンスの方法と頻度。特に頻度に関しては、唯一絶対の正解がないのが悩ましいところです。
メンテナンスは面倒だと思っていると、「〇〇万km(またはXX年間)ノーメンテで問題なし!」みたいな怪しい動画やSNS投稿が都合よく目に入るので、つい伸ばし伸ばしになりがちです。メーカーから推奨メンテナンス周期が明示されていても、「えっ!?そんなにやらなきゃダメ?」と疑ってしまうことも。
この記事では、メンテナンスの方法や適切なメンテ周期といったハウツーはメーカーのマニュアルに任せて、マニュアル記載内容の背景にある考え方や、マニュアルを逸脱した際のデメリットやリスクについて触れ、自分でベストなタイミングを判断するための材料を提供します。
ノーメンテだとどうなる?
必要なメンテナンスを怠った場合、部品は壊れていきます。 "壊れます" ではなく、時間の経過を伴って "壊れていきます" というのがミソです。
直感的にイメージできるよう、グラフにしてみました。データを元にしているわけではないので、縦軸はざっくり「性能」、横軸は「走行距離」と読んでも「経過時間」と読んでも構いません(たくさん乗る人は距離、あまり乗らない人は時間と読むとイメージしやすいと思います)。緑色は、動作不良や摩耗がない領域、赤色は摩耗や著しい性能低下がある領域を示しています。
後輪のラチェット機構を例に、グラフ各部分の状態を記します。
- ① 新しい部品に、新しくキレイなグリスでスタートします。
- ② グリスは緩やかに経年劣化しますが、潤滑性能に悪影響が出るのはもう少し先のことです。
- ③ 雨や洗車によって水分や洗浄剤、適さない油が侵入するとグリスは流れ出たり劣化して潤滑性能が大きく低下し、摩耗が始まります。
- ③' 細かい砂などの異物が入ると部品を削り、生じた削りカスがさらに部品を削るので、摩耗は加速度的に進みます。
- ③" 異物が可動部品同士の隙間に挟まったり、潤滑油の種類や量が不適切だとスムーズな動きが制約されます。
- ④ 限界に達し、走行に支障が出ます。
よく「特に大きな衝撃があったり落車があったわけでもないのに突然壊れた」というような話を聞きますが、大体は "突然" 壊れたのではなく、徐々に壊れていった結果、どこかのタイミングで走行に支障が出たというのが正確なはずです。
一般的な感覚では④が壊れたタイミングとして認識されるのでしょうが、「不可逆的なダメージ」という意味では元に戻せない摩耗も "壊れた" と呼ぶのに十分な状態だと捉えましょう。前述の「〇〇万kmノーメンテで問題なし!」の人は、たまたま④に至っていないだけで、各部品はすでに「問題あり!」かもしれません。
③"は不可逆的なダメージではない場合もありますが、瞬間的に④に至ってしまう恐れがあります。予兆なく絶好調から絶不調(ラチェットが噛み合わないなど)へと転じるので、事故などにつながるリスクもあります。
メンテナンスをすると?
上の例に、適切なメンテナンスを導入すると、グラフは下のようになります。まずは、水分や異物の混入がない状態を見てみましょう。
②の段階でクリーニングと再注油をすると、ほぼ①の状態にリセットされるので、製品の寿命は最大化します。メーカーがマニュアルで指定するメンテナンス周期は、このあたりを狙って設定されます。もう少し先にある、緑とピンクの境界付近でメンテナンスをしても結果に差はありませんが、正確にその時点を予測するのは難しいので、ゆとりを持たせることになります。FFWDのホイールに多く採用されるDT Swissハブの場合、通常使用におけるメンテナンス周期は「1年に1回」と記載されています。
次は、事前予測が不能な、異物混入パターンです。③を例に見てみましょう
③、③'、③"のような状態は走行距離や経過時間と関係がないので、理想的には発生のタイミングが即メンテナンスのタイミングとなります。マニュアルに指定されたメンテナンス周期を守ると却って害になることもあるので、あくまでも目安として考え、早めに対処する必要があります。DT Swissハブの場合、異物混入リスクが高い環境でのメンテナンス周期は「3ヶ月に1回」と記載されています。
メンテナンス頻度が低いと?
知らず知らず③、③'、③"のような状態に陥っていた場合には特に、悪い状態が長く続くことを意味します。それによって摩耗が進むと、メンテナンスでリセットを試みても①の状態まで戻すことができなくなるので、性能を100%引き出せなくなったり、本来の寿命をまっとうできなくなります。
メンテナンス方法が悪いと?
誤った潤滑方法(グリスが必要なところにオイルを差す、専用グリスが指定されているところに違う種類のグリスを塗る、グリスが多すぎるなど)は、期待に反して潤滑不足や動作不良につながる恐れがあります。
不適切なクリーニング(パーツクリーナーを直接ブシャ〜っとやる、金属や樹脂を傷める洗浄剤を使うなど)は、洗浄剤が余計なところに入り込んで必要な成分を洗い流してしまったり、直接的に部品を傷めてしまうリスクがあります。
②の末期や③の初期に、応急処置的に "追いグリス" を施すのは、やらないよりはマシという考え方もできますが、せっかく高級な専用グリスを使うなら、汚れや劣化した古いグリスを綺麗に落としてからの方が、気分的にも良いと思いませんか?
グリスが切れるのは最悪ですが、入れすぎても抵抗が増えてしまうので "追いグリス" は慎重に(表向きはお勧めしません!)。
マニュアルを逸脱すると保証が効かない?
厳しい言い方をすると、誤った使い方やメンテナンスをしたり、メンテナンスを怠ったりすれば製品が意図された通りに機能しなくなるのは当然です。整備に関してはマニュアル通りにやっているつもりでも、前提となる専門知識がない場合には間違ってしまうこともありますから、自分でいじるならすべて自己責任と覚悟してください。
とは言え、保証は「製品が壊れないこと」をお約束しているわけではなく、「製品に不良がないこと」をお約束しているに過ぎません。いじるのも自転車の楽しみ方の一つですから、壊れたら有償で修理をするつもりで、チャレンジするのも良いでしょう(安全に関わることもあるので、やるなら本気で勉強してください。「ユーチューバーの動画を見た」は勉強にカウントしません)。
「維持管理にお金をかけたくない」というのは無理です。一歩間違えば他人の命に関わる乗り物ですから、こまめに点検し、必要な修理にはお金をかけてください。
おまけ:中古ホイールについて
新品では手が出ないような高級ホイールも、中古なら手ごろな価格で出回っていて、買うのも売るのも手軽なサービスが広まったことで、若い方を中心に一般的な購入手段になってきていると感じます。ただ、いざ修理が必要になると、買った値段よりも費用が高くなるケースもあり、直さずに整備不良の状態で乗り続けたり、壊れたまま再度、中古市場に流しているのを見かけます。
本題に使ったグラフで、模式的に中古ホイールの見えない過去をイメージしてみました。
手に入れたものに大満足なら良いですが、もしイマイチだったら、それは製品やブランドのせいではなく、前オーナー(あるいはそれ以前)のメンテナンスが悪かったのだろう、と思ってください。
古いホイールは、同じ部品が手に入らない場合もありますが、本物であれば中古でも修理やメンテナンスを承ります。お問い合わせフォームからご依頼ください。→https://ffwdwheels.jp/pages/contact