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リムテープの末端、切り方色々

細かすぎて伝わらないリムテープの貼り方

ロードバイクでも珍しくなくなってきたチューブレスレディ。他のシステムにはないメリットが数多くあり、プロレースの世界にも広がりを見せています。

空気を保持するチューブがないため、専用リム、専用タイヤに加え、シーラントと呼ぶ液体を用いて、各部の隙間を埋めています。一部のメーカーには穴のないリムもありますが、一般的なスポーク穴(正確にはニップル穴)の開いたリムでは、チューブレス専用のリムテープを貼って穴を塞ぐことになります。

気密性を確保するために重要なリムテープの貼り方や末端の切り方については、様々な方法があって、極論すれば、しっかり貼り付いて気密性があり、剥がれにくければ何でも良いのですが、この記事では先達の知恵と、細かすぎる考察から「"究極の"チューブレス用リムテープの貼り方」を模索します。


 《チューブレスのメリット、デメリットについて詳しくはこちら》
https://ffwdwheels.jp/blogs/technology/benefits-of-tubeless-tires

《プロ選手に聞くチューブレスタイヤのセッティングについてはこちら》
https://ffwdwheels.jp/blogs/hero/ask-the-pros-1

《FFWDチューブレス化マニュアル日本語版はこちら》https://cdn.shopify.com/s/files/1/0559/8032/7103/files/7480fb86f01b1b536b47036fa1ea7817.pdf?v=1679310155


 下準備

油分を含まない清潔なウェス(毛羽落ちしにくいマイクロファイバークロスやペーパーウェスなど)にアルコールを含ませ、リムベッド(リムテープを貼る面)の汚れや油分を拭き取ります。

この一手間で、リムテープ貼りの成否が大きく変わることもあります。新品のリムでも意外と汚れているので、絶対に外せない手順です。

リムテープを貼る方向

テープの終点がホイールの上側にある時に、進行方向に対し後ろを向くように貼ると、テープ末端に浮きが生じても、シーラントが粘着面に入り込もうとするのを抑えることができる、と考えられます。これ、愛三工業レーシングチームの鈴木 譲 選手も実践しているそうです。

ディスクブレーキ用のホイールなら、ブレーキローター側(反ドライブ側)を手前にして、左から右に向かって貼り進めると、終点が後ろを向きます(左利きの場合は、全部逆にするとやりやすいと思います)。

 起点・終点(考え方)

リムテープの貼り始めの位置(起点)は、バルブ穴から5〜7cm離れたところに設け、貼り終わりの位置(終点)は、起点を通り越してバルブ穴の反対側に5〜7cm離れたところに設けるのが一般的です。こうすることで、バルブ付近では10〜15cm程度、リムテープ同士が重なるようになります。

この貼り方は、重なり合うテープをバルブの根元で押さえる形になるので、万が一、末端が剥がれてきても途中で止めることができ、スポーク穴の露出を回避できるメリットがあります。

リムテープ末端の重なり

一方、バルブ穴とは反対側に起点、終点を設ける貼り方もあります。

タイヤ方式に関わらず、空気の出し入れをするためにはバルブが必要です。このバルブは、ホイール一本につき一つしか付いていないので、回転質量に偏りができます。それをリムテープの重なり部分の重量でバランスを取ろうという考え方です。実際には、バルブの重量が数グラムあるので、完全なバランスは取りきれませんが、FFWDのオランダ工場では、この貼り方を採用しています。

では、どちらが良いのか?

チューブレス運用時には、タイヤビードがリムテープの両サイドを押さえてくれるので、タイヤ装着時に正しくリムテープが貼られていれば、起点、終点の位置に関わらず、スポーク穴が露出するほど完全に剥がれてしまう心配はないと言えます。クリンチャー運用時には、チューブが全体的に押さえてくれるので、元々リムテープがめくれてしまう余地はありません。

オランダ本社でも「どっちから貼っても問題なし!」という見解です。製品はカウンターバランス方式、マニュアルはバルブ側を指示、と本当にどっちでも良いんだな、と思わせてくれます。

ただし、繰り返しタイヤを着脱するような場合には、バルブが物理的なバックアップとなってくれる前者の貼り方が安心できる気がします。シーラントが粘着面に回ってしまうと再接着はほぼ不可能で、一度テープが剥がれ始めると、あとは悪くなる一方だからです。

このため、日本で組んだJ-SPECモデルや、弊社で修理をする際には、私の心配性もあってバルブ側に起点、終点を設けています。

起点・終点(実際の合わせ方)

バルブ穴を中心に5〜7cm(またはテープの重なりが10〜15cm)という目安はあるものの、測る必要はまったくありません。スポーク本数によって塞ぐべき穴の位置は異なるので、現物合わせで長さを決めるのが一番です。合わせ方としては以下のような感じです。

リムテープ起点

テープの末端付近が穴にかかっていると密着させにくいので、貼り始めの位置は、隣り合う穴どうしの中間点が良いでしょう。バルブ穴から数えて、左右にそれぞれ1つ目と2つ目の穴の中間に起点・終点を設けると、24本スポークの場合、リムテープの重なりは16cmほどになります。 リムテープの重量は非常に小さいので、重なりが多少、大きくなっても乗っていて体感することはないでしょう。

テープ同士が重なる部分での注意点

テープの粘着面に様々なテクノロジーが注がれているのは、容易に想像がつくと思いますが、実は背面側にも工夫が凝らされています。荷造り用のテープなどでは、梱包作業者のストレスになりがちな、テープを引き出すときの「ヴィイイイイイ」という音を小さくするための背面処理が施されていたり。

リムテープも何かしらの背面処理(ロゴのプリント含む)がされていて、それが原因でテープ同士のくっつきが悪くなる場合があります。

貼った直後は問題ないのですが、時間が経つと浮き上がってしまうことがあるので、予防の意味も含めて、重なり合う部分のテープ背面をアルコールで脱脂すると良いでしょう。

また、リムテープは平らではない面に貼っていくので、接着面に空気が閉じ込められてしまうことがあります。リムに直接触れている部分では、スポーク穴に向かって気泡を押し出すことができますが、テープ同士が重なり合う部分では、気泡を逃がすのが難しくなります。テープを貼る時に、よれたり緩んだりしないよう、真っ直ぐに軽く引っ張りながらリムに対して位置を決め、反対の手(指の腹)で空気が入らないように押さえるようにしましょう。この時、素手だと指先が痛くなるので、グローブをするか、ウェスなどを指先に巻くと良いです。

リムテープの二重巻き

 メーカーによっては、ロードなどの高圧使用時には二重巻きを推奨しているところもあります。FFWDでも旧式のロゴなしテープでは、二重巻きをお勧めしています。テープ素材が高圧向きでない場合、テープがスポーク穴に落ち込むように窪んでしまい、穴の縁でテープが傷付いたり、窪みになったところが伸びすぎて裂けたりして、空気が漏れることがあるからです。

最近のロードホイールについてくるようなリムテープなら、重ね貼りをしなくても高圧に耐えられるものが多いですが、定期的なチェックは怠らないようにしましょう。テープの点検や交換は、タイヤ交換時、またはシーラント入れ替えのついでにおこなうのがお勧めです。

 タイヤとリムの相性によっては、空気が入りにくいことがあります。そんな時にはリムテープを二重貼りして外径をわずかに大きくし、ビード(タイヤの縁)との隙間を小さくする方法があります。それでもゆるい場合は、そもそもあまり良い組み合わせではないのかもしれません。他のタイヤを使用する方が安心です。

チューブを使うなら普通のリムテープ(リムフラップ)で良い?

リム内に高圧の空気が勢いよく流れ込むと、圧の逃げ道が小さいのでリムが膨らんで割れてしまうことがあります。カーボンリムなら、チューブを入れて使用する場合でもチューブレス用リムテープを使用するのが安心です。

リムテープの末端処理

剥がれにくいリムテープ末端の切り方は?というのがこの記事を書くことになったきっかけでした。まずはツイッターでのアンケート結果を見てください。

結果を見ると、シンプルな「直角に直線切り」が最も多い回答でした。この切り方の最大のメリットは、シーラントに触れる切断面を短く抑えられること。粘着面がシーラントに侵されるリスクを最小限に止めることができる、と考えられます。作業性の面でも有利で、刃渡りの短いハサミでも一発でスパッと切ることができ、片手が塞がった状態でも切り損じがありません。

次に多かったのは「斜めに直線切り」。断面が長くなることで、複雑にカーブするリムベッドに密着させやすく、浮き上がりにくいと考えられます。ただし、鋭角に切りすぎた場合には、尖った部分の接着面積が小さくなりすぎてズレたり剥がれたりするリスクが出てきます。

リムテープ末端、切り方色々

 少数派だった角丸や半円加工は、絆創膏やステッカーなどで角が引っ掛かってめくれるのを防ぐためによく使われていますが、タイヤの中に収まっているリムテープの場合は、引っ掛かるような外的要因がないので、かける手間の割りに合わない気がします。

頂点がリム中央にくるような三角は、リムベッド底のアール形状に逆らわないということ以外はメリットが思い浮かびません。テープの両サイドはビードで押さえられた状態になりますが、突出した中央部分は接着面積が小さい上に、ビードで押さえられることもないのでペロッと剥がれやすくなります。切り口も長くなり、シーラントに触れることによる悪影響が出やすいと懸念されます。

三角形の頂点をつまんで引っ張りながらテープを密着させ、最後に頂点を切り落として台形にする、という方法なら、鋭角を作らないので接着面積の減少を抑えつつ、指先の皮脂が粘着力を低下させる心配も解消できて一石二鳥かもしれません。ただし、両サイドがビードで押さえられることをメリットと捉えるなら、三角、台形、半丸はいずれもその恩恵を受けられないと言えます。

選択肢にはありませんでしたが、斜め切りの派生型として、鋭角になった頂点を逆から斜めに切り落とす「頂点ずらし三角形」とでも呼ぶべき切り方をしているメカニックさんもいました。手数は増えますが、これもありかもしれません。

結論

重要なのは「剥がれにくく気密性が確保できれば何でもOK」ということ。貼り方、切り方に唯一の正解はありません。また、裏を返せば「一見、マニュアル通りでも、気密性が保てないならダメ」ということでもあります。

たかがテープ貼りですが、ダメだったときのリスクやコストを考えると、プロに任せても決して高くはない作業です。


販売店の皆さまへ

ここからは、日々お客様のニーズに応えるべく、サービスを提供しているプロ向けの内容になるかもしれません。

実は、上のアンケートと並行して、チューブレス経験の有無を問わず「どんな切り方が良いと思うか?」というアンケートも実施していました。下の結果をご覧ください。

チューブレス経験者が最も信頼を寄せる「直角に直線切り 」と同率で、「斜めに直線切り」が支持されています。「三角・台形」は一番不人気。

興味深いのは、約2割の回答者が、チューブレス経験者には不人気だった「曲線切り」を選んだことです。ステッカーや絆創膏では当たり前の角丸加工は、「角があると剥がれやすい」というイメージを、しっかりと我々の脳に刷り込んでいます。角には応力が集中しやすく、角を擦ったり、引っ掛けたりすると剥がれやすいというのは間違いではないので、選ぶ人が多いのも納得できます。盲点なのは、テープがタイヤの中にあって、しかもビードで押さえられており、絶えず擦られたり引っ掛けられたりする環境にない、ということ。

高い割合の方が曲線切りに期待を寄せているので、角丸加工がないと「あの店は分かってない」と思われてしまうかも。かと言って、必要ない加工を施すのも手間が惜しい。そんな時はどうすれば良いのか?

この記事を読んでもらってください。

※あまりの長文にお客様がイライラしても、当社は責任を負いかねます。