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【応急処置TIPS】転んだ!倒れた!からシングルスピード化まで

【応急処置TIPS】転んだ!倒れた!からシングルスピード化まで

そうそう起きないと思っているトラブルほど、いざ発生した時には慌てるものです。チェーン落ちや、パンクなら冷静に対処できるライダーも「ディレーラーがもげた!」となると、ちょっと焦りますよね。

そこまで酷い状況じゃなくても役立つ記事にすべく、自転車が右側に倒れた時に発生しやすいリアディレーラー周りのトラブル対処法をまとめてみました。「なんでホイール屋が?」と思われるかもしれませんが、トラブルを見過ごすとホイールにダメージが及ぶ危険があるからなんです。

自転車が右側に倒れた時は要注意!

自転車が右側を下にして倒れると、いい確率でリアディレーラーが路面に当たります。そうすると、取り付け基部にあるディレーラーハンガーが曲がったり、折れたりするんです。

ここが曲がると、リアディレーラーについている2つのプーリー(小さな歯車。上をガイドプーリー、下をテンションプーリーと呼びます)とカセットスプロケットの平行がずれてしまい、狙った段に変速できなくなったり、スプロケとスポークの間にチェーンが脱落してしまう恐れがあります。最悪の場合、軽いギアに変速した時にプーリーケージ(両プーリーを固定している枠)がスポークに巻き込まれ、被害を拡大することもあります(転倒、ハンガー折れ、スポーク折れ、ディレーラー破損、フレーム破損など)。

チェーンが落ちてスポークに深い傷が入ってしまい、後にスポーク折れに発展したケース

ディレーラーハンガーは金属製で、ある程度曲げられるものと、ほとんど曲がらずに折れるものがあります。交換可能なこの部品を犠牲にして、より大事なフレームを守る役割がありますので、ここを丈夫にしすぎては意味がありません。曲げられるものは曲げ戻せる可能性がありますが、直そうとトライした結果、より状況の悪い「折れ」に発展することも多いので、一度、冷静になりましょう。

二次災害の防止

愛車のピンチに気が動転して周りが見えなくなり、応急処置をしている間に、さらに事故にあったり、他の往来の迷惑になってしまうこともあり得ます。

まずは安全で迷惑にならない場所に避難してから、復旧を考えましょう。

リミットスクリューによる被害拡大の阻止

応急処置は、少ない手数で最悪な状況を脱することができればそれでOK、という考え方もあります。本格的な修理は帰ってからショップにお任せ、というのも正しい切り抜け方の一つ。ぶっつけ本番で難しいことにチャレンジするのはリスクもあるので、まずは一番簡単な方法からご紹介します。

チェーン落ちや、ディレーラーがスポークに巻き込まれるのを阻止するためには、ディレーラーの稼働範囲を狭くすればOK。使えるギアは少なくなるし、変速性能は最悪かもしれませんが、なんとか走れるギアを探してピンチを切り抜けましょう。

  1. アウターxトップ(一番重いギア)に変速する。(曲がっている場合、後ろが小ギアに入らなかったり、隣の歯にチェーンが干渉する可能性あり。)
  2. プーリーケージの様子を観察する。(垂直でチェーンが小ギアに入って2段目との干渉がなければ問題なし。曲がりがある場合は、テンションプーリーが車輪に近くなる方向へケージが斜めになっているはず。)

赤い垂直線に対して、プーリー中心を結んだ黄色い線が傾いている

  1. 曲がっていたら、L側リミットスクリュー(振り幅調整ネジ)を1〜2回転締め込む(上の写真くらいなら1/2回転程度でチェーン落ちは防げるかも)。
  2. フロントをインナーに落とし、ゆっくり様子を見ながらリアをロー側へ変速していく。プーリーケージ末端がスポークに近づきすぎるようなら、シフターを1〜2段戻し、L側リミットスクリューをさらに1回転ほど締め込む(結果的にロー側ギア数枚に入らなくなっても良しとする)。

ディレーラーハンガーの修正

本来は直付けディレーラーハンガー修正工具という専用工具を用いて曲げ戻すのですが、ここでは応急処置のやり方をご紹介します。上の方法より、失敗したときのダメージは大きくなりますが、上手くいけば元どおりストレスなく走れる可能性が出てきます。

  1. アウターxトップ(一番重いギア)に変速する。(曲がっている場合、後ろが小ギアに入らなかったり、2段目にチェーンが干渉する可能性あり。)
  2. プーリーケージの様子を観察し修正の必要性を確認する。(垂直でチェーンが小ギアに入って2段目との干渉がなければ問題なし。曲がりがある場合は、テンションプーリーが車輪に近くなる方向へケージが斜めになっているはず。)
  3. 六角棒レンチの長い側が真上を向くように、短い側をディレーラー取り付けボルト(サイズは5mmが多い)に挿す。
  4. 六角レンチの長い側末端を車輪側に押す。真後ろから見て2つのプーリーが垂直になればOK。

この方法は、折りたたみ式の携帯工具ではできません。もし、適した工具がない場合は、ディレーラー本体を掴んで曲げ戻すことになります(1.、2.は上と共通)

  1. ディレーラー本体の、なるべく上の方(根元〜ガイドプーリー付近)をつかんで、下側をめくるように曲げる。テンションプーリー付近を引っ張ると、プーリーケージ自体が曲がってしまうので要注意。

折れてる!or 折れた!or 曲げ戻せなかった!という時には…

ディレーラーハンガーの交換

備えあれば憂いなし、ということで予備のディレーラーハンガーをサドルバッグに忍ばせておけば、ハンガーが折れてしまった時にも対応できます。ディレーラーハンガーはメーカーごと、どころかモデルごとに専用だったりするので、トラブルの際に運良く自転車屋さんが近くにあっても、適合する部品の在庫は、まずないと思った方が良いでしょう。持っておくとトラブル対応の幅が広がるのでお勧めです。

ディレーラーハンガーの取り付けネジは、携帯工具には含まれていない小さなサイズであることも多いので、交換用ハンガーを用意するなら、対応できる工具も一緒に用意しておきましょう。

  1. 折れてしまっている時には、ディレーラー側に残った部分を取り除くのが難しい場合もあるので、まずはここからトライ。グローブをする、ペンチがあればそれで押さえるなど、怪我しないように。
  2. 外せたら、今度はフレーム側。まずは車輪を外す。
  3. ディレーラーハンガーを交換する。
  4. ディレーラーを取り付けて、車輪を戻す。

ディレーラーハンガーを交換すれば完璧と思われがちですが、実際にはフレーム側の取り付け面の精度の問題(塗装が乗っているなど)で、新品のハンガーでも真っ直ぐにならないのは珍しくありません。プロショップでは新車組み立て時、ハンガー交換時、変速調整時にチェックして修正するのが当たり前、というところも多いです。ここではあくまでも応急処置なので、交換で完了としますが、ベストな状態に戻すなら後からショップに見てもらう方が良いでしょう。

1.でつまずいた場合は次の"最終手段"へ。

シングルスピード化

ディレーラーがぷら〜んとしているけど、ハンガー交換はできない!という場合には、シングルスピード化という最終手段があります。後輪にディレーラーを巻き込んだり、チェーンに落ちている枝などを巻き込んだりして、ディレーラーそのものが破損してしまった場合も、この方法しかありません(楕円チェーンリングの場合は諦めましょう)。

この応急処置には、チェーン切りという専用工具が必要です。携帯工具に含まれているものもありますし、携帯を前提とした小型の物もありますので、トラブルがあっても自力解決を迫られる場面(ケータイの電波が届かない場所、ロードサービスが来てくれない場所、セルフサポートのレースなど)が想定されるなら持っておいて損はありません。

最近は、完成車にもマスターリンク(ミッシングリンク、クイックリンク)が使われているものが増えていますが、シングルスピード化するならチェーンの長さを詰めなければならないので、チェーン切りは必須です。となるとミッシングリンクを外すより、他の部分で切ってアンプルピン(コネクティングピン)で繋ぐ方が、工具を減らせて有利かもしれません。

チェーン切りの使い方、チェーンの正しいつなぎ方は、メーカーのマニュアルを参照してください。アンプルピンによる固定は、力加減にちょっと慣れが必要なので、事前に練習しておきましょう。チェーン切り、アンプルピンは、使用する段数にあったものを用意しましょう。
  1. チェーンを下側で切る(切った後は落としやすいので要注意)
  2. ディレーラーを抜き取る
  3. ケーブルを外す(ケーブルは巻き込まないようにフレームに固定。結束バンドやダクトテープは他の応急処置にも重宝するので携帯することをお勧めします)

 ここからが重要です。

シングルスピード化する時に、まず考えがちなのは「もう変速はできない。どのギア比にしよう?」ということ。この先の行程をイメージして「あの坂、登れるかな?」とか「スカスカで進まないのは嫌だな〜」など。

これ、要注意です。「走れるだけマシ」の精神でいきましょう。

  1. チェーンが最もまっすぐ流れるギアの組み合わせを探す
  2. チェーンの長さを合わせる(パツパツよりタルタル)

まず4.について解説します。多段変速の自転車は、チェーンを横方向へ押したり引いたりすることで脱線させます。ディレーラーなしでは変速できないのは当然なのですが、実はディレーラーがないと同じ段をキープするのも難しくなるんです。ディレーラーについているガイドプーリーは、スプロケットの手前にあって、チェーンの位置を制御する役割を果たしており、チェーンがチェーンリングの延長線方向に移動したがるのを抑えているんです。

ディレーラーが正常についている状態でも、クランクを逆回転させると、チェーンが勝手に他の段に入ったり、チェーンリングからチェーンが落ちてしまうことがありますよね。特にチェーンが斜めに掛かっている状態(アウターxローやインナートップはその両極端)だと、顕著にその症状がでます。これは逆回転だとガイドプーリーやフロントディレーラーが効いていない状態になるからです

裏を返せば、逆回転した時にガチャガチャと音がしたり、勝手にチェーンが移動してしまう位置関係を避ければ、ディレーラーがなくても同じ段をキープできると考えられます。前後ギアの位置関係にもよりますが、フロントダブルなら最大で2通りのベストポジションがある、ということになります(写真ではフロント3枚の自転車を使っているので、理論上3通りあることになりますが、通常はセンターを選びます)。この位置を知っておけば、いざという時に慌てずに済むかもしれません。

ここが完璧でないと勝手に変速してしまい、5.の調整も無駄になってしまうので、十分注意しましょう。

前後の歯に対して最もチェーンが真っ直ぐになる位置

もともと前後にギアが一枚ずつの自転車には、チェーンの張りを調整する機構が備わっていますが、多段変速の自転車をシングルスピード化する時には、ちょうど良いチェーンの長さにならないのが普通です。また、不思議と位置によって張りが強くなったり弱くなったりするので、少したるむくらいがちょうど良い長さです(写真の自転車はチェーンの伸びがひどく、横方向にもフニャフニャだったので、応急処置でなんとかするレベルではありませんでした。トラブルも二重苦、三重苦となると解決が難しくなるので、日頃のメンテナンスが重要です)。

タルタルのチェーン

長さ調整でチェーンを切る位置は、"ぴったりに最も近い(けど届かない)"+2リンクが目安となります。

  1. アンプルピンのパイロット部分(尖っている方)を差し込み、仮固定。
  2. ピンが歯に干渉しない範囲でクランクを動かしてみて、チェーンの張り具合を指で押して確認
  3. チェーンを繋ぐ(リンクの動きがスムーズかチェックを忘れずに!)

上手くいけば、楽ではないかもしれませんが、なんとか目的地まで完走できるでしょう。

ケーススタディ

最後に、この記事を書くきっかけとなったユーザー体験談を、要約してご紹介します。

《Daichiさんの記事全文はこちら(外部サイト)》
→https://daichi-cross.hatenablog.com/entry/2023/03/02/002514

200kmブルベの休憩中、立てかけてあったバイクが強風で倒れ、ディレーラーハンガーが折れてしまった。リタイアも考えたが、同行者に運良くチェーン切りを持っている方がいて、シングルスピード化を決行。

残り約90kmのコースを念頭にギア比を選択したが、走り始めてすぐにチェーンが隣のギアに移動してしまった。脚に抵抗を感じるほどチェーンは張られ、異音も気になってはいたものの、トラブルをも楽しみに変えて無事完走!

その代償がこちら↓

カセットスプロケットが噛み込んだフリーボディー

チェーンが乗っていた歯が、フリーボディーの山を食いちぎりそうになっています。多少、重たいギアを踏むことになったとしても、チェーンにゆとりがあれば、ここまで食い込むことはなかったと思われます。山の両側に噛み込みの跡が見られるので、チェーンのローラーがカムのように作用して、歯を逆方向に押し戻す動きも加わっていたのかもしれません。

アルミのフリーボディーなので、通常の使用でも小さく噛み込みが発生するのはよくあることですが、ここまですごいのは初めて見たので、資料として譲っていただきました。